予期せず売春地獄に落ちたダークな喜劇は、148のツイートから生まれた実話
A Twitter Movie
出会ってすぐに意気投合したゾラ(右)とステファニだが ©2021 BIRD OF PARADISE. ALL RIGHTS RESERVED
<ツイッターの着信音と操作音が鳴りっぱなしの、型破りな映像スタイルが話題の映画「ゾラ」。見かけほど純真ではないステファニに気づいたときに視点の大転換が起こる>
この音がこんなに鳴りまくる映画、見たことない。ツイートを送信したり、スレッドに新しいツイートが来たときに鳴る、あの音だ。
ジャニクサ・ブラボー監督の新作『ZOLA ゾラ』では、ひっきりなしにSNSの着信音や操作音が鳴り響く。主人公と同じくらいにヘビーなSNSユーザーなら、すぐにそれと分かる音だ。
この作品にもいろんな楽曲が使われているが、そのどれよりもスマホの操作音が作品の世界観を雄弁に物語る。こんな映画は初めてだ。実世界で大注目されたツイッターのスレッドが原作なのだが、まさにSNSの世界に迷い込んだような感じがする。
そう、「原作」は2015年に黒人女性ゾラ・キングが投稿した148本のスレッドで、知り合ったばかりの女性に誘われてフロリダへの旅に出た彼女が、セックスと暴力まみれの冒険に巻き込まれた一部始終をつづったものだ(ちなみに本人は「元祖スレッド屋」を自称している)。
この映画はゾラのツイートから伝わる活気や楽しさをうまく捉えている。だがブラボー監督と共同脚本家のジェレミー・O・ハリスは見逃さなかった。一連の出来事を追体験するのは確かにスリリングだが、生身のゾラは不快感や恐怖感も抱いていたはずだと。
ゾラ役のテイラー・ペイジも、その点をよく理解している。実際のツイートを読み上げるボイスオーバーの声は、誰かが誰かの噂話をする際に特有の、ちょっと事情通を気取った皮肉っぽい調子だ。一方で生身のゾラを演じるときの彼女は、自信に満ちていながらも自分の置かれた状況への不安と緊張を感じさせる。
ウエートレスとして働いていたゾラは、客としてやって来た白人女性ステファニ(ライリー・キーオ)と意気投合し、連絡先を交換する。
すると翌日、ステファニから旅に誘われ、戸惑いながらも一緒に行くことに。だがステファニには、ポン引きのX(コールマン・ドミンゴ)が付いており、この旅が悪夢の始まりになるのだった。
作中で起きるさまざまな出来事だけでなく、映像のスタイルも型破りだ。ある種の様式美にこだわりながらも、状況が緊迫したものになるにつれて沈黙が全体を支配し始め、観客も息を潜めて事態を見守ることになる。
ラッパーのバッド・ベイビー風のアクセントからヘアスタイル、長い付け爪に至るまで、ステファニは最初に登場した瞬間からグロテスクな雰囲気を放っているが、観客が「彼女は見掛けほど純真ではない」ことに気付くにつれ、さらにグロテスクさを増していく。
そして彼女の不運な恋人であるデレク(ニコラス・ブラウン)は、ステファニの人生の強烈さに対処できず、うろたえるばかりだ。