子育てが難しいと感じる親──原因の一つは「甘え」と「甘やかし」の混同だった
子どもの甘えたい気持ちを満たしてあげれば、反抗やわがままや暴力は改善していきます(写真はイメージ) damircudic-iStock
<子育ての混乱は世界に通ずるものがある。国境を超えた子育て情報の氾濫、効率を求める経済...先進国の出生率の低さに「子育てへの不安」が投影されている。不安を紐解くために「甘え」と「甘やかし」の違いを、まず理解したい>
中国で1979年から36年間に渡って実施されてきた「一人っ子政策」は2015年に撤廃されました。急速に進行する少子高齢化社会へ対応するための処置です。この政策の結果、今中国で子育てをしている親のほとんどは「一人っ子」です。
一人っ子政策は終わりを告げましたが、子育て中の親の多くは、自分が一人っ子として育った経験や将来への経済的な不安などから、二人目を持つことを躊躇しています。つまり、一人っ子同士の夫婦が、一人っ子を育てているという状況なのです。
中国では「子育ては祖父母の仕事」です。その間、働き盛りの両親は共働きをして住宅ローンや生活費を稼ぐ。日常の家事や子どもの世話は祖父母に任せ、両親は平日の夜や週末だけ子育てに参加する、というのが中国の典型的な子育てスタイルです。
クマのような子どもたち
一人っ子政策時代に育った子どもたちは「小皇帝/シャオホァンディ」と呼ばれていました。「子は宝」という中国の伝統的な価値観に加えて、2人の両親と4人の祖父母が「たった一人の子ども(孫)から嫌われたくない!」と競ってモノを与えて皇帝のように甘やかしたのです。
甘やかされて育った一人っ子の特徴として「わがまま」「自己中心的」「協調性がない」「思いやりがない」など、社会性の希薄さがあります。もちろん誰もがそう育つわけではありませんが、そういう傾向があるということです。
今、中国で問題になっているのが「熊孩子/ションハイズ」です。甘やかされて育った一人っ子が親になり、小皇帝に輪をかけてわがままな子どもを育てているというのです。「熊孩子」は直訳すると「クマのような子」という意味ですが、中国では「手のつけられないいたずらっ子」という意味で使われます。
熊孩子は、ただのいたずらっ子ではありません。友だちにケガをさせたり、女性にモノを投げつけたり、公衆トイレを破壊したり、車に傷をつけたり、公共の秩序を乱し、他人の財産や命の安全をも脅かす、もはや犯罪レベルの傍若無人ぶりです。
世界中のどの社会でも、子どもが集団に参加する年齢になると、親や地域社会の責任で公共のルールを教えたり、マナーを教えたり、人付き合いの方法を教えたりという「しつけ」を行ないます。ところが熊孩子の親たちは、子どもに嫌われたくないからと、しつけを放棄してしまったのです。
もともと中国は世界でも有数の「礼」を重んじる国でした。しかし文化大革命(1966-1976)によってそれまでの価値観(主に儒教による)が一切否定され、礼儀や道徳を重んじた伝統文化が断ち切られてしまったのです。太古の昔から伝わってきた子育ての知恵や文化を失った中国の親たちは、どう子どもを育てたらいいのか、どうやってしつけたらいいのか、すっかりわからなくなってしまったのです。