子育てが難しいと感じる親──原因の一つは「甘え」と「甘やかし」の混同だった
甘えが満たされないと問題行動が起こる
子育ての混乱は中国に限った問題ではありません。国境を超えた子育て情報の氾濫に加え、経済至上主義や効率第一の価値観が子育てにも入り込み、世界中の親を戸惑わせています。特に先進国においてこの傾向は顕著で、出生率の低さに「子育てへの不安」が表われているのではないでしょうか。
子育てが難しいと感じる親が増えている原因の一つに「甘え」と「甘やかし」の混同があります。この二つは全く異なるものなのですが、はっきりと両者の違いを区別できている人は少ないと思います。
「甘え」は子どもの成長のプロセスに欠かせないものです。どの子もある時期に「甘えを満たされること」がなくては精神的な自立ができないのです。「甘え」は、子どもが「自分は受け入れられているか」を打診する行為です。その打診に対して親が受け入れる姿勢を示すのが「甘えさせる」という行為です。
重要なのは、子どもにとって一番身近な存在である「母親」が甘えを満たしてあげることです。母親に受け入れてもらえないと「基本的信頼感」が育たず、「自分は人に(あるいは社会に)受け入れられていない」という不安感や不信感が心に根付いてしまうのです。すると、こんどは母親以外の人に甘えようとするのですが、それがしばしば、わがまま、反抗、暴力という形で表れるのです。
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一方の「甘やかし」は子どもの甘えの感情をお菓子やおもちゃなどの「モノ」ですり替える行為です。子どもが「車のおもちゃが欲しい」と言い張ります。車のおもちゃを買ってあげたら、今後は「電車のおもちゃが欲しい」と言い出します。子どもに要求されるまま、次々とモノを買ってあげると「甘やかし」になり、ますますわがままになっていきます。
子どもが本当に欲しいのはおもちゃではなくて親の愛情なのです。親に思い切り甘えたいだけなのです。でもその気持を理解してもらえず、甘えの気持が満たされないと、代わりにモノで心の隙間を埋めようとするのです。
残念ながら、いくらモノを買い与えても子どもの欲求不満は解消しません。それどころか、わがままは悪化し、モノへの執着は強くなり、反抗がひどくなり、最悪の場合、「熊孩子」のような他損行為へと発展していきます。
「子どもが言うことを聞かない」「しつけを受け入れない」と悩んでいる方は「甘え」と「甘やかし」を区別して、子どもへの対応を変えてみてください。実践すると、子どもがガラリと変わって素直になり、しつけをスムーズに受け入れてくれるようになります。ウソだと思って試してみてください。
甘えを満たすには皮膚接触が一番効果的
子どもの「甘えの感情を満たす」ことは難しくありません。母親が一緒に遊び、抱っこして、頬ずりして、一緒にお風呂に入って、添い寝をして、母親の皮膚と子どもの皮膚が接触する機会を増やすことが、愛情の実感体験には一番効果的です。母親が子どもとベタベタして、たっぷりかわいがってあげると、「自分は受け入れられている」という自信が回復します。すると欲求不満は解消し、わがままや反抗は収まっていきます。
子どもは「甘え」による母親との愛着形成を土台にして、しつけを受け入れ、 社会性を身につけ、自立していきます。子どもに甘えや反抗など、普段とは違うおかしな行動があるときは、心に不安がある表れです。親はこのサインを見逃さず、皮膚接触を増やして「甘えの感情を満たす」ことを心がけてください。
もちろんどの親も我が子を十分に愛していると「思って」います。しかし大抵の子どもは親から愛されていると「実感できていない」のです。親子で愛情の感じ方に大きな温度差(愛情のすれ違い)があることを知ってください。子どもの甘え(反抗も甘えです)は、愛情の確認行為ですから、求めてきたときはいくらでも甘えさせてあげればいいのです。
中国の親たちが「熊孩子」を生み出している原因の一つが、子育てを祖父母や幼稚園などに丸投げしていることです。子どもの「甘えの感情」を満たせるのは親だけです。親が子育ての主導権を取り戻し、子どもの甘えたい気持ちを満たしてあげれば、子どもの反抗やわがままや暴力は改善していきます。
これは日本で子育てしている家庭でも同じです。子どもをとことんかわいがり「自分は親から受け入れられている」という自信を大きく育ててあげてください。心の栄養はいくら与えても与えすぎることはありません。良いときだけでなく、悪いときも子どもを愛し、受け入れ、たっぷりかわいがって育てれば、素直で、賢く、自信に満ちあふれた、たくましい子どもに成長します。
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[執筆者]
船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。
2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。