バーナンキが大規模詐欺の被害者に
アンナの免許証は偽造されたか?
組織のあるメンバーは米政府が出資する慈善団体にもぐり込み、連邦政府職員から郵送されてくる大量の小切手を組織に流していた。ワシントンの病院で働いていた別のメンバーは、患者の記録や銀行口座情報を入手していた。
さらに組織は、今年ミシガン州デトロイトで開催された全米大学体育協会(NCAA)のバスケットボールトーナメントのようなスポーツイベントを狙って全米を飛び回っていたと、ミシガン州地方事補のドナ・ペンダーガストは言う。
ペンダーガスト自身、同トーナメントを観戦中に組織のメンバーに財布をすられたという。彼女は、被害に気づかなかったほど巧妙な手口だったと、本誌に語った。「肩にかけているバッグから財布を抜き取られたのに、私は何も感じなかった」
犯人たちは運転免許証や軍人身分証明書を入手すると、それらの戦利品を輪ゴムでまとめて路上に駐車していた車に積み込む。車には別のメンバーがノートパソコンやスキャナーやプリンターを持って待機しており、すぐに被害者の名前を使った偽造免許証や身分証明書を作成する。ただし、写真は組織のメンバーのものに変えるのだ。
この組織がアンナ・バーナンキの名前を使った免許証を偽造したという証拠はない。しかしメンバーの1人は、連邦検事が「分割預金」取引と説明する、複雑な金融詐欺でバーナンキの小切手を不正使用したとされている。
バーナンキ夫人のバッグがスターバックスですられた6日後、組織のメンバーとされるジョージ・リー・リードが「K・N」という人物になりすまし、メリーランド州プリンスジョージ郡郊外にあるバンク・オブ・アメリカの支店に入った(裁判記録によれば、K・N本人は盗難被害を数日前に届け出ていた)。
当初は「B・B」のイニシャルだけ
リードは不正な900ドルの小切手2枚をK・Nの口座に預金したが、そのうち1枚がワコビアの「ベン・バーナンキとアンナ・バーナンキ」の口座のものだった。連邦検事によれば、リードはK・Nの預金残高をバーナンキの小切手で膨れ上がらせると同時に、別の4500ドルの小切手2枚をK・N宛てにし、不正に現金化したという。結局、リードはK・Nとして9000ドルを受け取って銀行を後にした(バーナンキは妻がバッグをすられた後、ワコビアに報告しており、取引によって金銭的な被害は受けなかったと、彼の同僚は言う)。
連邦捜査官が今年夏のはじめにこの窃盗集団を逮捕したとき、リードは米郵便検査官が署名した22ページにわたる供述書の中で共謀者の一人として挙げられた。しかしバーナンキを含む被害者の名前は伏せられた。訴状では、被害者は「B・B」のようにイニシャルしか書かれていない。
しかし昨年秋にワシントンの上級裁判所に提出されたリードに対する別の刑事告訴状では、ベン・バーナンキという名前がはっきりと書かれている。
本誌は、最終的に起訴が取り下げられたワシントンの裁判でリードの弁護士を務めた人物にコメントを求める電話をかけたが、返事はなかった。しかし、ある連邦捜査当局者(進行中の事案のため匿名を希望)は、バーナンキに詐欺を働き小切手を使用した人物に対して逮捕令状が準備されていると話す。「まだ彼を追跡している」と、当局者は言う。