最新記事

サイバー攻撃

ロシア系ハッカーの標的にされたオーストラリア データ漏えいに怯える市民たち

2022年12月4日(日)10時52分

エマさんのケースでは、数年前に自殺した義父を含めた家族の情報も、ハッキングされたという。

「義父はもう何年もメディバンクを使っていなかった。あれだけの情報がハッカーの手元にあるかもしれないなんて、本当に嘆かずにはいられない」と、彼女は口にした。

もはや犯罪者のやりたい放題?

犯罪者や国家の支援を受けた犯罪組織によるオーストラリアでのサイバー攻撃は昨会計年度に急増し、11月初旬に公開された政府の報告書によると、7分に1度の頻度で攻撃が通報されたという。

豪州サイバーセキュリティセンターが出した年間サイバー脅威報告書によると、昨会計年度は、前年比13%増となる7万6000件のサイバー犯罪の通報があった。その中でも被害規模が大きかった事件の多くは、ソフトウェアのアップデートが適切になされていなかったことが原因だったと指摘している。

マッコーリー大学でテクノロジー法を教えるニロファー・セルバドゥライ教授は、そういった現状に沿って個人情報の収集や保管期間に制限をかけるべきだと語る。

「データ漏えいはもはや避けようがない。だが個人情報の収集に制限をかけることができれば、被害の度合いを軽減することができる」と同氏は指摘する。

連邦プライバシー法の下、企業は「合理的に必要な」個人情報を集めることができる。だがセルバドゥライ教授は、この定義は大まかすぎ、「データ収集者に悪利用される危険性をはらんでいる」という。

「とはいえ、こういった議論が繰り広げられ始めているのは良いことだ」と同氏は語る。

一方、野党議員らは、今年末に出される司法長官府による連邦プライバシー法の2年レビューを待たずに、政府が改正案を可決したことを批判している。このレビューでは、データ保護の強化に関する推奨事項が含まれる予定だ。

エマさんは、個人情報保護の強化に向けた取り組みは、もはや手遅れであると考えている。

今回の事件によって「再びトラウマを植え付けられた」と、エマさんは語る。精神を患っていることを同僚に知られたら、偏見を持たれるのではないかと、恐怖を抱き始めるようになったという。

またエマさんは、請求歴のデータを脅迫のネタに使われることも心配している。今予定されている法改正が今後のデータ漏えい防止につながるかについては、懐疑的な見方を持っているという。

「現時点では、犯罪者のやりたい放題のような気がする。最悪の気分。すごく私的な情報を誰に握られていて、それをどうにもすることができないだなんて」と、訴えた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中