最新記事

深圳イノベーション

コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか──「プロトタイプシティ」対談から

2020年8月14日(金)07時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

伊藤 もともとは、基盤的技術、中間技術、特殊技術がすべてそろうフルセット型産業構造が日本には存在していました。フルセット型産業構造とはなにかというと、鉄鉱石という原料を輸入すれば、後は日本国内ですべて加工できる。原材料さえあれば自動車や機械といった最終製品まで完成できる、というイメージです。

プラザ合意以後、円高によって日本の人件費が上がります。耐えられなくなった、付加価値の低い分野から順にアジアに移転していき、フルセット型産業構造から国境を越えたサプライチェーンの活用へと移行していきますが、一九九三年の時点でこのような未来を見通した名著です。

関が示したとおり、製造業は韓国や台湾、東南アジアを経由して、最終的には中国に集まっていく。エレクトロニクスに関しては、深圳が長期にわたって移転の終着点の座を守り続けたため、膨大な産業集積が実現しました。

prototypecity-book20200814-chart_v2.png

『プロトタイプシティ』183ページより 図表作成:本島一宏

山形 関の示した図で面白いのが、ある製品から別の製品への転換です。図ではA財からB財への移行として描いています。特殊技術に関しては、別の製品を作る際には総取っ替えというか、応用できる部分がほとんどありません。中間技術は半々程度、基盤的技術はほとんど使える、というわけです。

キャッチアップ型工業化では、新興国が応用の利く基盤的技術をどれだけ育てられるかが工業化実現の要因になったわけです。深圳でも、藤岡淳一の言う二重構造エコシステムの外周部には無数の中小零細企業がいて、基盤的技術を担っている。その基盤的技術の蓄積が、ドローンやアクションカメラなどの新製品を、安価かつ超高速で作れる土壌になっているわけです。

深圳は、ハードウェアの三角形がしっかりしています。さらに、深圳の周囲にも補完的な産業集積があります。東莞(ドングワン)市に金型加工、深圳市に設計、広州市に自動車と関連産業など、珠江(ジユージヤン)デルタにはしっかりとした技術的基盤があります。

さらに、ソフトウェアエンジニアリングの裾野(すその)も広い。ものづくりの三角形がしっかりある上で、デジタルの三角形があるのはきわめて希少です。IoTを筆頭に、ハードウェアとソフトウェアの連携がかつてないほどに求められている時代において、きわめて大きなアドバンテージです。

もう一つ、産業基盤が必要だと考える理由があります。デジタル技術とは、ソフトウェアを作る狭義の技術以外に、広義のデジタル技術があります。それは、新たなテクノロジーによって既存の産業を作り替え、効率化するものと言い換えてもいいでしょう。ブランディングやマーケティング、原材料・部品調達、アウトソーシング工場のサーチコスト低下、物流コストの減少など、デジタル化は、今やきわめて多くの産業分野に影響を及ぼしています。製造工程にしぼったとしても、各種の自動化やロボットの導入などによる効率化は、業界を大きく変えています。

広義のデジタル化、つまり既存産業の効率化を行うためには、当たり前の話ですが、既存産業がないと成り立ちません。今まで何も産業がなかったところに生まれることはないわけです。そう考えると、深圳のように製造業の基盤があったから合理化の余地、イノベーションの可能性があったとも考えられるわけです。

【関連記事】日本の敗退後、中国式「作らない製造業」が世界を制する理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB副総裁、米FRBとの協力は「通常通り」

ビジネス

中国人民銀、各種構造的金融政策ツール金利を0.25

ワールド

立民・公明が新党結成で合意、野田氏「高市政権を追い

ビジネス

イオン、クスリのアオキHDへの取締役派遣を取りやめ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 8
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 9
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 10
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中