コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか──「プロトタイプシティ」対談から
高口 高層都市、プロトタイプシティは今、どこに生まれているのか。具体的に予測することは難しい。深圳にしても、現時点では誰もが認めるイノベーションの都ですが、ほんの五年前の時点では、信じない人のほうが多かったでしょう。私は、二〇一七年にある経済誌に深圳特集の企画を提案したのですが、「ソニーぐらいの大企業が生まれてからやりましょう」と返されたことをよく覚えています(笑)。
おそらく、ネクスト・プロトタイプシティの予測は、次のユニコーン企業を探すのと同じように難しい。ユニコーン企業とは、評価額一〇億ドル以上の未上場企業を指しますが、未上場企業の評価額は株価とは違い、日々変化するものではありません。新たに資金調達する時に、いくら出資したらどれだけの株を取得できるのかを決めるための値付けです。だから、融資する側が一〇億ドル以上の価値があると予測した時点で、突然ユニコーンになるわけです。
つまり、「この会社はユニコーンになりそうだ」と、みんなが思った時点でもうユニコーンになっているわけです。プロトタイプシティも同じで、「ここが新たなイノベーションの発信源になる」とみんなが予測した時点でプロトタイプシティになっている。そのため、一歩手前の状態というものが基本的にはなく、「なるかどうかわからないが有望」の次の段階は、もう「なっている」わけです。
伊藤 おっしゃるとおり、具体的な都市名をあげて「ここがプロトタイプシティだ、ポスト深圳だ」と予想することは困難ですね。ただし、前述のとおり、プロトタイプシティになるであろう都市には、いくつかの条件が必要です。条件を吟味することは可能ではないでしょうか。
山形 一つの条件として考えられるのが、産業基盤の蓄積です。関満博(せきみつひろ)『フルセット型産業構造を超えて 東アジア新時代のなかの日本産業』(中公新書、一九九三年)という本があります。彼は、日本の製造業が持つ技術を基盤的技術、中間技術、特殊技術に区分し、ピラミッド型の技術集積構造にあると位置づけています。
底辺にある基盤的技術は鋳造、鍛造、メッキ、熱処理などの「3K職種的色合いの濃い加工技術」で、東京都大田(おおた)区、川崎(かわさき)市、東大阪(ひがしおおさか)などの中小零細企業が担う部分です。最上部の特殊技術は先端的技術であり、大企業やハイテク型ベンチャーが担い手です。中間技術は生産技術や組み立て加工に加え、コネクターや集積度の低い半導体など、一時代前の特殊技術も含まれています。