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がん診断に欠かせない病理医とは? 病理学を知るとどんなメリットが?

2019年9月6日(金)11時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

仲野 少し前に「これからのがん」っていうことについて考えてみたんですけど、顕微鏡で細胞なんかを確認するときに使うHE染色(*)っていうのは、自転車みたいなもんとちゃうかと思うんですよ。

(*HE染色:ヘマトキシリン・エオシン染色。青紫色と赤色の2色を用いる代表的な染色法。生体組織や細胞などに色を付けることで、顕微鏡での観察がしやすくなる)

どういうことかというと、自転車って、いつまでたってもなくならないでしょ? 発明されたのは19世紀の初め頃で、その後、自動車が出てきて、飛行機が出てきて、他にもいろんな乗り物が出てきたけど、それでも自転車はなくならない。それって、近距離での簡便な移動には、やっぱり自転車が最適だからなんですよ。

それと同じような意味で、HE染色もいつまでもなくならないだろうな、と。これも、開発されたのは19世紀の終わり頃だと思いますけど、今でも当時のまんま。医学界にあって、これほど進歩していないものも珍しい。

悪口じゃなくて褒めてるんですけど、それだけ確立された方法ってことなんですよ。自転車と同じように、周辺で優れた方法がいっぱいできても、簡便さと安価さで生き残る。同じような理由で、HE染色もなくならないから、病理医もいつまでも生き残るでしょう。ライバルにAIが出てくるけど。

小倉 そうですね。やはり形態診断は病理診断の最も重要な部分です。それからAIより自分の診断のほうが早いだろうなって思ったりします。

仲野 それはちょっとAIを侮っているな(笑)。ただ、自転車のアナロジーでいくと、やっぱり小回りがきくとか、コストが安いっていうメリットは残りますよ。その伝でいくと、もっと遠くまで行くための自動車や飛行機に匹敵するのが、遺伝子診断やがんのゲノム解析ということになるんでしょうね。

小倉 仮にAIが確定診断をするようになった場合、誰が責任を持つのかっていうのが難しいと思うんです。病理医としては、AIの診断と自分の診断が割れるようなことは、今後絶対にあると思っているので。

仲野 それは確かに難しい問題で、ひょっとすると、どちらをとるかは患者さんが決めないといけないかもしれない。

小倉 患者さんにとっても難しい時代になりますよね。

病理学を知ることは、病気の本質を知ること

小倉 今回、病理の話を一般の人に読んでもらいたくてこの本(『おしゃべりながんの図鑑』)を書いたんですけど、そもそも「患者さん自身が病理学を知るメリットは?」と聞かれると、ちょっと言葉に詰まっちゃうんですよ。

仲野 そうやねぇ。実際にがんにかかった人がこの本を読んだところで、治りやすくなるわけやないしね(笑)。ただ、僕の本(『こわいもの知らずの病理学講義』)もそこそこ分かりやすいっていうことで評判になったんやけど、それよりもさらに分かりやすい本になっていると思いますよ。

小倉 知り合いががんの疑いがあるかもしれないと言われた際に、不安でいろいろながんの本を探してみたけれど、感情に訴えるようなものはつらくて読む気がしなかったそうなんです。結局、がんではなかったのですが、わたしの本を読んでくださったときに、こういう正しい病気の知識がきちんと書かれた本が当時あったら、どんなに救われただろうかと言っていました。

この本の役割をその方が教えてくださった気がしました。やはり、自分の身体の中で何が起こっているかを把握したほうが安心ということはあると思います。これから、医学がますます進歩していきますが、自分の治療について医師任せにするのではなく、病気のメカニズムを含めてある程度しっかり理解していることは大切ではないかと思います。

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