「海運の脱炭素化」を牽引...今治造船、瀬戸内海で進化する「持続可能な輸送」
ゼロエミッション船のフラッグシップ(7000台積みLNG燃料自動車運搬専用船)
<世界の物流を支える海運業界では、環境負荷軽減を目指す取り組みが進んでいる。2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを目標に、国内最大手の今治造船株式会社は、代替燃料船の開発や燃費効率の向上を通じ、持続可能な海上輸送の実現を目指している>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
船が支える持続可能な物流
私たちの生活を支える食料や物資のほとんどは船で運ばれている。日本の貿易量の99.6%、原油や石炭などのエネルギー資源にいたってはほぼ100%を海上輸送が占める。海運は、日本のみならず世界の物流に欠かせない基盤だ。
船舶は燃料消費による環境負荷のイメージを持たれがちだが、実際には1トンの貨物を1キロ運ぶ際のCO2排出量は、飛行機の140分の1、トラックの27分の1と、他の輸送手段に比べて圧倒的に少ない。船は、環境に優しい輸送手段と言える。
一方で、輸送量の増加に伴い、地球環境への影響も懸念されている。このままでは、2050年には国際海運のCO2排出量が世界全体の7%に達すると予測されている。
こうした課題に対応するため、愛媛県の今治造船株式会社は、環境配慮型船舶の建造を進めている。同社は1901年の創業以来、「船主と共に伸びる」という経営理念の下、2940隻を超える船を世界に送り出してきた。現在では建造量で日本一を誇り、世界でもトップクラスの造船会社である。
船舶のCO2排出量を今以上に削減するため、今治造船は多角的なアプローチを進めている。その一例が船舶の大型化と低速化だ。かつては荷物を迅速に運ぶことが重視され、大型エンジンを搭載して大量の燃料を消費する設計が主流だった。しかし現在では、一度に大量の貨物を運ぶことで輸送効率を高める方向へシフトしている。これにより、船体の大型化が進む一方、速度の追求が減少し、エンジンの小型化が可能となった。結果として、燃料消費量の削減とCO2排出量の抑制につながっている。