尾瀬の水芭蕉が咲き誇る風景を「日本酒」で取り戻す、永井酒造の挑戦
「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」現地活動の様子
<群馬県で130年以上酒造りを営む永井酒造株式会社。2020年に新たに発売した「MIZUBASHO Artist Series」を軸に、地元尾瀬の水芭蕉を守る環境保護活動を次世代とともに取り組むなど、幅広い活動を通じてよりよい社会作りを>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
地元・尾瀬の水芭蕉のある風景を取り戻す
永井酒造株式会社は、1886年の創業以来、群馬県川場村で日本酒製造を営んでいる。同社が、現在取り組んでいるのが「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」だ。
水芭蕉は川場村にほど近い尾瀬を代表する花だが、近年、地球温暖化の影響でニホンジカの食害に遭うようになり、その数は激減している。
プロジェクトリーダーを務める永井松美氏は、プロジェクトの背景についてこう語る。
「2019年に現蔵元が久しぶりに大清水湿原に足を運んだ際、一面に広がっていた水芭蕉が大幅に減っていることに気づきました。そして、『自身が思い描いていた風景を取り戻したい』と思ったことが、この活動に繋がっています。
そもそも、初代当主がこの土地の水に惚れ込んで創業し、水を守るために森を買い足して自然環境を保護してきたことが当社の原点。地元の自然を守り、次世代に受け継いでいく取り組みは、当社の理念に直結していると考えています」
2030年までに2万株の水芭蕉の花を咲かせるという目標を掲げ、賛同する企業や学校とともに苗場の整備や種の収穫、苗植え、広報活動のためのインターネットラジオやキャンペーン展開などを行っている。
「尾瀬は国立公園なので育苗には尾瀬に咲く水芭蕉の種しか使えないという制約がある上、水芭蕉の花は咲くまでに3年以上かかります。そのため、数百株まで減った水芭蕉を2万株まで増やすのは簡単ではありませんが、同じ志を持つ企業や地元の尾瀬高校とも協力することで、少しずつ成果が出てきています。これからも日本の美しい原風景を守り続けていきたいです」と、永井氏。
「MIZUBASHO Artist Series」を中心に多様な取り組みを推進
「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」の活動資金となっているのが「MIZUBASHO Artist Series」だ。尾瀬の未来に持続可能な形で貢献するために立ち上げた日本酒シリーズで、売り上げの5%を寄付している。