最新記事
ヘルス

「健康寿命を伸ばすなら海藻を食べよ」 医師が推奨、日本人特有の腸内細菌・酪酸菌は海藻から筋肉を増やせる

2023年6月30日(金)15時10分
江田 証(医学博士、江田クリニック院長) *PRESIDENT Onlineからの転載

日本人の死因第3位には筋肉量が深くかかわっている

「サルコペニア」と「フレイル」という言葉をご存知だろうか。

サルコペニアの「サルコ」は筋肉、「ぺニア」は喪失の意味で「加齢による筋量の減少」をいう。もう一方の「フレイル」には「加齢による心身の衰え、虚弱状態」の意味がある。どちらも高齢化が進む日本社会で深刻な健康問題となっている。

日本人の死因の第1位は「悪性新生物(がん)」、第2位は「心疾患」、そして第3位が「老衰」だ。日本人の多くは特定の病気ではなく、体の衰えによって亡くなっている。サルコペニアが進行してフレイルになり、そのまま亡くなる――これが日本の高齢者に多い"亡くなり方"なのだ。

そう考えれば、「筋肉」が日本人の寿命に大きな影響を与えるといえる。

京都府京丹後市の健康長寿の高齢者にはサルコペニアが少なく、寝たきりにもならずに"ピンピンコロリ"で天寿を全うする人が多いことがわかっている。

筋力と筋肉量を維持してサルコペニアを防ぐことが、健康長寿につながるのだ。

若い頃の過度なダイエットが老後の寝たきりリスクを招く

サルコペニア、フレイル、老衰、寿命――若い人にはまだピンと来ないかもしれない。

ただ、筋肉の衰えや筋肉量の低下は高齢者に限ったことではない。現代人はスリム志向が強く、多くの人が「ダイエットしてやせたい」「細くなりたい」と切望する人が非常に多くなっている。

やせたいがために短時間で急激な減量に挑み、体重は減ったけど同時に体力も筋力も落ちて体調を崩すケースも少なくない。

太りすぎが健康によくないのはいうまでもないが、筋力や筋肉量が著しく低下するようなダイエットや生活習慣もまた健康を害する要因になってしまう。

また、若いうちから筋肉を落としてしまうと、将来、年を重ねてからサルコペニアやフレイルに陥って寝たきりになるリスクが高くなる。「サルコペニア肥満」という言葉がある。加齢による筋肉量の減少であるサルコペニアと、体脂肪率が多い体型を掛け合わせた言葉だ。サルコペニア肥満は、通常の肥満よりも生活習慣病にかかりやすく、運動能力を低下させるため、結果として寝たきり生活になってしまう危険性がある。

若い頃に落ちてしまった筋力を高齢者になってから回復させるのは容易ではない。だからこそ、若いうちから意識して筋肉を減らさない生活を心がけるべきなのだ。「貯金」ならぬ「貯筋」をコツコツ続けるとよいだろう。

加齢で筋肉が萎縮するのを抑制する腸内細菌

前項では日本人はその独特な腸内細菌によって、あまり動物性たんぱく質を摂らなくても海藻類などで筋肉を増やすことができると述べた。ではなぜ海藻類が筋肉増加・維持をもたらしてくれるのだろうか。

そこには近年注目の「酪酸」がかかわっている。酪酸は「酪酸菌」と呼ばれる善玉の腸内細菌が腸内でつくり出す短鎖脂肪酸の一種である。この酪酸には筋肉を溶かしてしまう「HDAC(エイチダック/ヒストン脱アセチル化酵素)」という酵素の働きを阻止し、加齢で筋肉が萎縮するのを抑制する働きがあることがわかっている(※)。

※出典:Walsh, Michael E., et al. "The histone deacetylase inhibitor butyrate improves metabolism and reduces muscle atrophy during aging." Aging cell 14.6 (2015): 957-970.

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中