最新記事
ヘルス

「健康寿命を伸ばすなら海藻を食べよ」 医師が推奨、日本人特有の腸内細菌・酪酸菌は海藻から筋肉を増やせる

2023年6月30日(金)15時10分
江田 証(医学博士、江田クリニック院長) *PRESIDENT Onlineからの転載

その理由を探るためにパプアニューギニア高地人と日本人の腸内細菌を比較調査したところ、彼らの腸には日本人にはほとんど見られない特殊な腸内細菌が多く存在していることがわかった。そのひとつが「窒素固定菌(ちっそこていきん)」という細菌だ。

パプアニューギニア高地人がサツマイモを食べると、腸内で分解されて窒素が発生する。すると、窒素固定菌によってその窒素から筋肉の材料であるアミノ酸が生成される。そのアミノ酸から筋肉ができる――。そう考えられている。

彼らの筋肉は肉のたんぱく質ではなく、「腸内細菌が窒素からつくった独自のプロテイン」でできているというわけだ。

筋肉の多い日本人の長寿者には「酪酸菌」が多い

日本人がパプアニューギニア高地人の真似をして、同じようにサツマイモばかり食べても筋肉をつけることはできないだろう。たんぱく質不足になってガリガリにやせてしまうのがオチだ。日本人の腸内細菌は、彼らのそれと違って窒素固定菌がほぼ存在していないからだ。

だが日本の長寿地域での研究では、肉を食べなくても、たんぱく質の摂取量が多くなくても、筋力が衰えず、年齢を重ねても元気で活動的に暮らしている人が大勢いることが判明した。そこには、やはり、日本人独特の腸内細菌が関係しているのだ。

日本人の腸内細菌は世界的に見ても非常に特殊である。例えば日本人の約90パーセントに、海苔などの「海藻」を分解する酵素を持った腸内細菌の存在が認められている。こうした腸内細菌を持っているのは、隣国である中国を含む世界各国では約15パーセント程度しかいない。日本人と中国人の遺伝子は非常に似ているのに腸内細菌はまったく違うのだ。

この特有の腸内細菌のおかげで、日本人は海藻に含まれる「ポルフィラン」という炭水化物を分解して栄養源(エネルギー)に変えることができる。民族によって腸内細菌は異なるため、栄養学も十把一絡げに論ずることはできないのだ。

筋肉を増やすために有効な食材は肉だけではない

筋肉を増やすには、筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂ることが重要だというのはよく知られている。たんぱく質を豊富に含む食品の代表格といえば、やはり「肉」だろう。とくに低カロリー&高たんぱくの「赤身肉」や「鶏のささみ」「鶏胸肉」などは筋トレ民たちの必須の"神食材"だ。

だがここで、原点に立ちかえってみる必要がある。筋肉を増やすために、肉だけを食べることが不可欠なのだろうか、と。

実際、日本の長寿地域での研究では、筋肉量と肉などのたんぱく質摂取量とは相関関係がなかった。筋肉量と相関したのは、腸内で「酪酸」を作る「酪酸菌」(ラクノスピラ、ロゼブリア、コプロコッカス)だった。そして、腸内に酪酸菌が多い人が食べているものを分析すると、「海藻」や「豆」、「野菜」、「味噌汁」などだったのだ。肉を食べているから筋肉が多いわけではない。肉などのたんぱく質を摂ることだけが筋力アップや筋量の増加につながるとは限らない。肉食も手段のひとつではあるが、絶対条件ではないのだ。

パプアニューギニア高地人がサツマイモで、日本人が海藻類などで筋肉を増やせるように、腸内細菌の違いによって効率的に筋肉を得るためのアプローチも異なることを理解しておく必要があるだろう。

事件
ニューズウィーク日本版メンバーシップ登録
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベセント米財務長官、インドに対する追加関税撤廃の可

ワールド

米、嵐で16万戸超が停電・数千便が欠航 異常な低温

ワールド

市場の投機的、異常な動きには打つべき手を打っていく

ワールド

米ミネアポリスで連邦捜査官が市民射殺 移民取り締ま
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 8
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 9
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 10
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中