最新記事

ライフスタイル

伊サルデーニャ島に100歳人が多い理由 島の羊飼いが70年続けている習慣、食生活とは?

2022年12月14日(水)17時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

私は、トニーノとジョヴァンナのこれまでの人生の足取りについて尋ねた。二人は互いに、相手のことばが足りないところを補い合った。トニーノが羊飼いの仕事を始めたのは、五歳のころだった。彼とジョヴァンナが結婚したのはともに二〇代のはじめで、すぐに四人の子どもができた。一九五〇年代には、とても貧しかった。食べものは、自分たちの土地で採れたものでまかなった。パン、チーズ、野菜(ズッキーニ、トマト、ポテト、ナス、そして重要なのはソラマメ)だ。肉は一週間のハイライトで、日曜日にはパスタとともに茹ゆで、お祭りのときには焼いて食べた。

この地域の食べものは、アメリカの食文化が浸透する以前の典型的な伝統食で、一九四一年に調査された次のような報告書の内容とそれほど違っていない。


「サルデーニャ島に住む羊飼いや農民の食料はきわめて簡素なもので、地中海周辺の基準からみてもかなり粗食の部類だ。パンが、圧倒的な主食になっている。農民たちは朝早く畑に出るとき、布袋に一キロほどのパンを入れて出かける。......昼食はたいていこのパンにタマネギ、少量のフェネル(ウイキョウ)かラヴァネッリ(ハツカダイコン)を添えるぐらいで、豊かな者だけがチーズを付け加えられる。

夕食はまた家族全員がそろって、野菜スープ(ミネストローネ)をすする。豊かな家庭だけが、いくばくかのパスタを加えられる。たいていの地域では、肉を食べられるのは週に一回、日曜日だけだ。調査された七一の町村のうち二六カ所では、肉はぜいたく品で、祭りのときだけにしか口にできない。地中海文化圏のなかでは異例のことだが、食事メニューのなかに、ほとんど魚が入ってこない」

報告書はさらに続けて、以下のように記している。


「羊飼いたちは毎日、ワインを欠かさない。農作業中にワインを飲む農民もいるが、たいていは夕食のときだけだ。しかも、せいぜいボトル四分の一ほど」

この地域で特産のカンノナウ種ブドウは、サルデーニャに降り注ぐ強烈な太陽の紫外線を少しでも防ごうとして、赤い色素を余分に出す。このブドウは伝統的に醸造の際にほかのものより長い時間、マセレート(皮を果汁に漬けたままにしておいて、タンニンや香味を加える)する。その結果、動脈血管の内部を浄化するフラヴォノイドの作用がほかのワインと比べて、二倍も三倍も強い。

ヤギの乳や乳マスティックオイル香(抗菌性があり、突然変異を防ぐ効果もある)も、サルデーニャ住民の長寿に貢献している秘密なのかもしれない。サッサリ大学の研究によると、サルデーニャのヤギの乳が含有するタンパク質と脂肪酸が、動脈硬化やアルツハイマーなど典型的な老化現象を防いでいる可能性もある。サルデーニャでは場所によって、乳香を、オリーブオイルの代わりに使う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アルゼンチン大統領、改革支持訴え 中間選挙与党勝利

ワールド

メキシコ、米との交渉期限「数週間延長」 懸案解決に

ビジネス

米クアルコム、データセンター向けAIチップ発表 株

ワールド

ロシア、ウクライナ東部で攻勢 ドネツク州の要衝ポク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中