伊サルデーニャ島に100歳人が多い理由 島の羊飼いが70年続けている習慣、食生活とは?
私は、トニーノとジョヴァンナのこれまでの人生の足取りについて尋ねた。二人は互いに、相手のことばが足りないところを補い合った。トニーノが羊飼いの仕事を始めたのは、五歳のころだった。彼とジョヴァンナが結婚したのはともに二〇代のはじめで、すぐに四人の子どもができた。一九五〇年代には、とても貧しかった。食べものは、自分たちの土地で採れたものでまかなった。パン、チーズ、野菜(ズッキーニ、トマト、ポテト、ナス、そして重要なのはソラマメ)だ。肉は一週間のハイライトで、日曜日にはパスタとともに茹ゆで、お祭りのときには焼いて食べた。
この地域の食べものは、アメリカの食文化が浸透する以前の典型的な伝統食で、一九四一年に調査された次のような報告書の内容とそれほど違っていない。
「サルデーニャ島に住む羊飼いや農民の食料はきわめて簡素なもので、地中海周辺の基準からみてもかなり粗食の部類だ。パンが、圧倒的な主食になっている。農民たちは朝早く畑に出るとき、布袋に一キロほどのパンを入れて出かける。......昼食はたいていこのパンにタマネギ、少量のフェネル(ウイキョウ)かラヴァネッリ(ハツカダイコン)を添えるぐらいで、豊かな者だけがチーズを付け加えられる。
夕食はまた家族全員がそろって、野菜スープ(ミネストローネ)をすする。豊かな家庭だけが、いくばくかのパスタを加えられる。たいていの地域では、肉を食べられるのは週に一回、日曜日だけだ。調査された七一の町村のうち二六カ所では、肉はぜいたく品で、祭りのときだけにしか口にできない。地中海文化圏のなかでは異例のことだが、食事メニューのなかに、ほとんど魚が入ってこない」
報告書はさらに続けて、以下のように記している。
「羊飼いたちは毎日、ワインを欠かさない。農作業中にワインを飲む農民もいるが、たいていは夕食のときだけだ。しかも、せいぜいボトル四分の一ほど」
この地域で特産のカンノナウ種ブドウは、サルデーニャに降り注ぐ強烈な太陽の紫外線を少しでも防ごうとして、赤い色素を余分に出す。このブドウは伝統的に醸造の際にほかのものより長い時間、マセレート(皮を果汁に漬けたままにしておいて、タンニンや香味を加える)する。その結果、動脈血管の内部を浄化するフラヴォノイドの作用がほかのワインと比べて、二倍も三倍も強い。
ヤギの乳や乳マスティックオイル香(抗菌性があり、突然変異を防ぐ効果もある)も、サルデーニャ住民の長寿に貢献している秘密なのかもしれない。サッサリ大学の研究によると、サルデーニャのヤギの乳が含有するタンパク質と脂肪酸が、動脈硬化やアルツハイマーなど典型的な老化現象を防いでいる可能性もある。サルデーニャでは場所によって、乳香を、オリーブオイルの代わりに使う。