伊サルデーニャ島に100歳人が多い理由 島の羊飼いが70年続けている習慣、食生活とは?
トニーノの家に戻ると、私たちは何杯かのワインとともに、一〇個あまりのクッキーを流し込んだ。一時間もすわっていると、トニーノはもう我慢できなくなって椅子から立ち上がった。彼は七〇年このかた、毎日ほどんど欠かさず、ウォーキングに出るか、ロバに乗って山頂にある一家の牧草地まで八キロの道のりを登り、羊の面倒を見るのを日課にしている。だがこの日は彼が私たちに付き合ってくれたのだから、私たちが車で送ることにした。
道は急カーブの連続で、何百メートルも森のなかをくねりながら登っていく。ガードレールなどはないから、転落したら即死だ。アメリカならこのような道路は法的に許されないし、少なくとも「危険」の標識が義務づけられる。だがここでは、そのようなものがないまま、日常的に使われている。
頂上の平らな場所は古い石垣で囲まれ、二〇〇頭ほどの羊が、草を根こそぎ食いちぎっている。
三頭の羊が押し合いへし合いしている間に、石垣の石が外側に落ちてしまった。トニーノはさしてあわてもせず、重い石をなんなく持ち上げて、もとの位置に戻した。次に断層面が露出している岩にもたれかかり、むかしと変わらない監視のポーズを取り、眼下の緑とのコントラストのなかで、凛りんと立ち尽くした。
私は、思わず尋ねた。
「退屈することはありませんか?」
言ったとたんに、愚問だと反省した。彼は、私を指差しながら大声で言った。
「わしはここで過ごす毎日に、とっても満足している」
彼の指先には、牛の血が乾いてこびりついていた。しばらく間を置いて、彼は続けた。
「わしはこの動物たちが好きだし、だからその面倒を見るのも好きだ。今朝、牛を葬ったが、本当はわしには牛はそれほど必要じゃない。肉の半分は息子のところに分けるし、あとの半分もほとんど隣近所にあげてしまう。だが動物たちの面倒を見ないようになったら、何もやることがなくて、家でボンヤリしているだけになる。人生の目的が、消えちゃうんだ。周囲の人、とくに子どもたちが愛いとしい。子どもたちが訪ねてきて、何かしら私が作ったものを見つける、そこに生き甲斐があるのだよ」
『The Blue Zones 2nd Edition(ブルーゾーン セカンドエディション)──世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ健康と長寿9つのルール』
ダン・ビュイトナー 著
荒川雅志 訳・監修
仙名 紀 訳
祥伝社
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