トランプ伝記映画レビュー レイプ、脂肪吸引、テレビ取材...「本人が激怒しそうなシーン」
Monstrous Self-Regard
このレイプシーンの後に、とびきり素晴らしい場面がある(そんなシーンは全体で数えるほどしかないが)。トランプが妻に覆いかぶさっている場面から唐突に、80年代を「トランプの時代」と宣言するテレビニュースの映像を重ねた画面に切り替わるのだ。
トランプを残酷に描くが、私たちは既に知っている
シャーマンの描写が最も鋭いのは、トランプの台頭がニュースメディアによって可能になっただけでなく、ほぼ完全にメディアによってつくり出されたことを示す部分だ。
壮大な不動産開発が実を結ばなかったらどうするのかとテレビリポーターに聞かれて、トランプは大統領選に出馬するかもしれないと答えた。すぐにジョークだと混ぜ返したが、テレビとして「おいしい」返答に、女性リポーターは喜びを隠そうとしない。
一方で、コーンは少なくともトランプより複雑な人物だ。検察官として「赤狩り」の先頭に立ち、政財界に通じる大物弁護士でもあり、レーガン政権など共和党に深く食い込んでいた。そして、自分が同性愛者であることを決して公に認めなかった。
『アプレンティス』でジェレミー・ストロングが演じるコーンは、冒頭から没落を予感させる。エイズで衰弱したコーンは仲間からも見放され、弁護士資格を失い、表舞台から姿を消す。
ただし、こうした大ざっぱな描き方は、お涙頂戴にしか見えない。トランプが自分に全てを教えてくれた男を見捨て、忠実な仲間も用済みになれば切り捨てるという残酷さを見せられても、彼が現実の世界でいつもやっていることだと私たちは知っている。
トランプが心の底から激怒しそうな、最も破壊的なシーン
アッバシはプレミア上映後のインタビューで、トランプのために個人的に上映会を開いてもいいと語り、「彼がこの映画を嫌いになるとは必ずしも思わない」と言った。
一方でトランプの広報担当者は、「ディスカウント店の閉店セールでDVDのバーゲンコーナーに置く価値すらない」と述べた。
トランプは何十年もの間、人々の注意を引き付ける能力ほど強力なものはないことを知っている。今回もトランプからの最も効果的な攻撃は、批判するために見る価値さえない映画だと示唆することだ。『アプレンティス』の存在自体が彼の虚栄心をあおり、彼の伝説に磨きをかける。
実際、最も破壊的なシーンは、裏切りや脱法行為、性的暴行に関するものではない。コーンの葬儀の場面に、トランプが脂肪吸引と、後退した生え際を隠すための手術を受ける映像が挿入される。
そこにいるのは業界の巨人でも、権力者でも、未来の世界のリーダーでもない。腹が出て髪が薄くなった、ただの中年男だ。この場面に対して訴訟を起こすことはできないが、トランプは心の底から激怒するだろう。