「みんな踊り出したくなる」──伝説の振付師ボブ・フォッシーの名作『ダンシン』が戻ってきた
Bob Fosse’s Dancin’ Comes Home
ブロードウェイでリバイバル上演中の『ダンシン』 JULIETA CERVANTES
<演出はオリジナル公演の出演者。45年前、フォッシーを拝み倒して自分の踊りを見てもらったシレントが、演出家兼ダンサーとして出演。恩師に捧げるリバイバル版>
45年前のこと。まだ新進の役者兼ダンサーだったウェイン・シレントはブロードウェイの稽古場で、巨匠ボブ・フォッシーに自分を売り込む絶好のチャンスを得た。
当時のフォッシーは『くたばれヤンキース』(1955年)や『シカゴ』(75年)などの振り付けで数々の賞を勝ち取り、映画版『キャバレー』(72年)ではアカデミー賞(監督賞)に輝くなど、既に伝説的存在だった。
「あのとき私はライザ・ミネリの舞台『ジ・アクト』に出ることになっていた」とシレントは語る。「劇場の一角でリハーサルをしていたら、反対側でボブが新作の打ち合わせをしていた」
その新作の名は『ダンシン』。キャストは既に決まっていたが、シレントはフォッシーを拝み倒し、自分の踊りを見てもらうことになった。主演ダンサーのアン・ラインキングも一緒に見てくれた。
記憶をたどり、シレントは続けた。「2人は私に振り付けを教えてくれ、一緒に踊ってもくれた。私はもう舞い上がった。終わったら、ボブは私の手を握って、こう言ったよ。『ありがとう、すごく楽しかった』」。
ああ、合格にはちょっと足りなかったかな。シレントはそう思いながらも、その日は夢心地だった。
だが『ジ・アクト』の初日、フォッシーがオーケストラ席の中央で見ているのに気付いた彼は気絶しそうになった。しかもフォッシーは上演後のパーティーに顔を出し、シレントを見つけると「私の新作に出てくれ」と言った。
それでシレントは、夜は『ジ・アクト』の舞台に立ちつつ、昼間は『ダンシン』の稽古に励むことになった。
「あの頃の彼は何でも好きなようにできた。だからダンサーと一緒に素敵な実験をやった」と、シレントは言う。その実験の結晶が『ダンシン』。それは演劇でもミュージカルでもなく、巨匠フォッシーがダンスというアートにささげた熱いラブレターだった。
シレントはほぼ全ての曲で踊った。そしてトニー賞の助演男優賞にノミネートされた。一方でフォッシーは最優秀振付賞を受賞している。
その『ダンシン』のリバイバル上演が、3月19日からブロードウェイのミュージックボックス劇場で始まっている。87年に死去したフォッシーに代わって演出を手がけるのは、そう、シレントだ。
踊りと踊り手が主役に
今のブロードウェイにはリバイバル作品があふれているが、シレントは『ダンシン』を「今の時代に通用する」作品にアップデートしたつもりだと言う。