最新記事
ミュージカル

「みんな踊り出したくなる」──伝説の振付師ボブ・フォッシーの名作『ダンシン』が戻ってきた

Bob Fosse’s Dancin’ Comes Home

2023年4月1日(土)10時14分
ローレン・ジーラ
『ダンシン』

ブロードウェイでリバイバル上演中の『ダンシン』 JULIETA CERVANTES

<演出はオリジナル公演の出演者。45年前、フォッシーを拝み倒して自分の踊りを見てもらったシレントが、演出家兼ダンサーとして出演。恩師に捧げるリバイバル版>

45年前のこと。まだ新進の役者兼ダンサーだったウェイン・シレントはブロードウェイの稽古場で、巨匠ボブ・フォッシーに自分を売り込む絶好のチャンスを得た。

当時のフォッシーは『くたばれヤンキース』(1955年)や『シカゴ』(75年)などの振り付けで数々の賞を勝ち取り、映画版『キャバレー』(72年)ではアカデミー賞(監督賞)に輝くなど、既に伝説的存在だった。

「あのとき私はライザ・ミネリの舞台『ジ・アクト』に出ることになっていた」とシレントは語る。「劇場の一角でリハーサルをしていたら、反対側でボブが新作の打ち合わせをしていた」

その新作の名は『ダンシン』。キャストは既に決まっていたが、シレントはフォッシーを拝み倒し、自分の踊りを見てもらうことになった。主演ダンサーのアン・ラインキングも一緒に見てくれた。

記憶をたどり、シレントは続けた。「2人は私に振り付けを教えてくれ、一緒に踊ってもくれた。私はもう舞い上がった。終わったら、ボブは私の手を握って、こう言ったよ。『ありがとう、すごく楽しかった』」。

ああ、合格にはちょっと足りなかったかな。シレントはそう思いながらも、その日は夢心地だった。

だが『ジ・アクト』の初日、フォッシーがオーケストラ席の中央で見ているのに気付いた彼は気絶しそうになった。しかもフォッシーは上演後のパーティーに顔を出し、シレントを見つけると「私の新作に出てくれ」と言った。

それでシレントは、夜は『ジ・アクト』の舞台に立ちつつ、昼間は『ダンシン』の稽古に励むことになった。

「あの頃の彼は何でも好きなようにできた。だからダンサーと一緒に素敵な実験をやった」と、シレントは言う。その実験の結晶が『ダンシン』。それは演劇でもミュージカルでもなく、巨匠フォッシーがダンスというアートにささげた熱いラブレターだった。

シレントはほぼ全ての曲で踊った。そしてトニー賞の助演男優賞にノミネートされた。一方でフォッシーは最優秀振付賞を受賞している。

その『ダンシン』のリバイバル上演が、3月19日からブロードウェイのミュージックボックス劇場で始まっている。87年に死去したフォッシーに代わって演出を手がけるのは、そう、シレントだ。

踊りと踊り手が主役に

今のブロードウェイにはリバイバル作品があふれているが、シレントは『ダンシン』を「今の時代に通用する」作品にアップデートしたつもりだと言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中