最新記事

フィギュアスケート

フィギュアファン歴30年の作家も驚く「羽生結弦が見せた神対応」

2022年12月2日(金)07時59分
茜灯里(作家、科学ジャーナリスト)


jpp026255479-20221130.jpg

「現地で観戦した平昌五輪の演技は、双眼鏡を使っていたわけでもないのに、終始、羽生選手の気迫に満ちた表情が目に見えるようでした。演技中は水を打ったようにシンとしていた客席から、演技後に爆発的な拍手が鳴り響いたことが忘れられません」(茜氏談)『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』178頁より ©EPA=時事


社会人になると、海外まで試合を見に行くようになった。当時は、テレビで見ることができるフィギュアスケートの試合と言えばNHK杯くらいで、世界選手権といえども放送はなかった。もちろん初期は動画サイトもないし、フィギュアスケート観戦ツアーもない。演技を見たければ試合会場に足を運ぶしかなく、自力で旅程を組んで海外まで見に行った。

国内外の会場で、ファン同士で話すようになると、私は日本人ファンと海外のファンの気質の違いを感じた。海外ファンはお気に入りの選手が複数いたり、自国の選手全員を応援したりする場合が圧倒的だ。対して、日本人ファンは1人の選手を現役引退まで一途に応援し続ける人が多い。脇目も振らずに応援しなければ、一途に努力をしている選手に対して申し訳ないと、自分を律しているようにも見える。

どちらが良い悪いという話ではない。けれど、日本人の特性のためなのか、ソチ五輪の頃までは、羽生選手の実力の割には海外の試合まで足を運ぶような日本人ファンは目立たなかったように思う。羽生選手がシニアデビューした2010年前後は、日本男子フィギュアの黄金期で、熱心なフィギュアファンには贔屓の選手が既にいたからだろう。

「ロミオ+ジュリエット」の演技が伝説となった12年世界選手権(仏ニース)の後ですら、私は海外の試合会場で「日本人はなぜ、もっとユヅの演技を見に来ないの?」と声をかけられた経験が何度もある。

早くから全日本選手権の予選を免除される立場だった羽生選手は、海外での試合が圧倒的に多かった。羽生選手ファンの参加を見越して、旅行会社各社がこぞってグランプリシリーズや世界選手権の「フィギュアスケート観戦ツアー」を設定するようになったのは、ソチ五輪以降だ。試合会場では、外国人ファンのほうが早くから羽生選手に熱狂していた印象を持つ。

日本での羽生選手の人気は、かつてのコアなファン以外の層から火が付いた。アップで見ても引きで映しても美しく、生を全力でぶつけるような演技は、テレビや動画サイトでたまたま見かけた人にも強く訴えかけた。演技後のキス・アンド・クライやインタビューで垣間見える真面目さと可愛らしさも、羽生結弦という人間を応援したくなる気持ちを後押ししただろう。

私はと言えば、久しぶりの王子様タイプで世界と戦う日本人選手の登場に、ワクワクして演技を追った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中