ピカソ作品も炭素排出ゼロへ 温暖化対策に目覚めたアート界「美術館は公共組織、有害ではいけない」
教授によると、リールの美術館パレ・デ・ボザールは最近開催したゴヤ展で、常設作品と近隣欧州諸国にある作品を優先的に展示することで、輸送を削減した。
ポンピドゥ・センターも、米国やアジアから作品を借りるよりも、地元の作品を展示することに力を入れている。
美術館同士が資源を共有することで、温室効果ガスの排出を抑える取り組みもある。
ポンピドゥのナルベイ氏は、ニューヨークなど同じ場所から作品を輸送する際にはルーブル、オルセー両美術館と共同で出荷リクエストを出すことで、排出量とコストの両方を削減できていると話した。
規模縮小、期間延長
キュレーターは作品数が150点から200点に及ぶ大規模展覧会の開催に慣れているが、持続可能性を唱える人々は規模削減が可能だと指摘する。
展覧会のセットには、炭素排出量の大きい資材が大量に使われ、最後には廃棄されることが多い。これを可能な限りリサイクルしようとする美術館が増えている。
ポンピドゥ・センターでは、2020年開催の「クリストとジャンヌクロード」展で使ったセットの一部を、昨年の「ヒト・シュタイエル」展で再利用した。作家のシュタイエル氏自身が、クリストへの尊敬と炭素排出量削減の両面から再利用を望んだという。
クリストとジャンヌクロードは環境アート作品を作成していた芸術家夫妻。シュタイエル氏は映像作品などを手がける芸術家。
一部のフランスの美術館は、主要な展覧会の期間を延ばして回転を少なくすることで炭素排出量を減らす取り組みも行っている。
ただ、美術館の環境対策に対する来館者の関心はまだ薄い。
サットン氏は「来館者向けのアピールというよりは、信頼感の問題だと考えている。そして信頼感は資金調達、政策立案者、コミュニティのメンバーに対して重要だ」と語り、「美術館や画廊は公共利益組織であり、有害であってはならない」と強調した。
(Joanna Gill記者)