最新記事

BOOKS

タイパ重視の時代、「映画を早送りで観る」人を否定すべきではない

2022年5月27日(金)12時35分
印南敦史(作家、書評家)

映像を「楽」に観るための改変も文明進化の必然

しかし本書の終盤において、著者は決定的な「答え」を提示する。技術と時代との関係がそれだ。


 技術はいつの時代も、人類がより快適に生活を送るための手段として存在してきた。技術は人類不変の「楽をしたい」という希望を叶えてきたのだ。18世紀から19世紀に起こった産業革命にしろ、20世紀から21世紀に起こったIT革命にしろ、その目的は人々が「楽になる」ことだった。(283ページより)

もちろん、映像を観るという行為もそうだ。

19世紀末のフランスにおいて、映像を有料で公開する世界初の映画館が誕生した。次いで1950年代には家庭にテレビが導入され、人々は場所的な制約から解放された。

1980年代にはVHSやDVDが時間的制約を取り払い、2000年代後半には配信が登場して物理的・金銭的制約を取り払う。そして2010年代後半からは、倍速視聴・10秒飛ばし機能が実装されたことで時間的制約はさらに小さくなったのだ。

そう考えれば、倍速機能や10秒飛ばしによって映像を「楽」に観られるように改変することも文明進化の必然と考えられるわけである。

もちろん"それだけ"で片づけられることではなく、さまざまな問題が絡みついている。

例えば大学生であれば、「奨学金を支払うために学校とアルバイトを両立させているため時間がない」というような事情も関係しているかもしれない。だとすれば、単に「価値観が変わったから」とまとめてしまうわけにはいかない。

だから難しいのだが、とはいえ我々は今、そんな時代に生きている。倍速機能に不快感を覚えるのであれば、通常モードで観ればいいだけの話。でも、だからといって、倍速機能を使う人を否定すべきではない。

堂々巡りで絶対的な"正解"にはたどりつけそうにないが、それこそが現代が現代たる所以なのだろう。

映画を早送りで観る人たち
 ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』
 稲田豊史 著
 光文社新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 9
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 10
    3年以内に日本からインドカレー店が消えるかも...日…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中