フィギュア5回転ジャンプ...物理的「限界」への挑戦と、「芸術性」軽視の批判
An Impossible Dream?
4回転を跳ばなければ勝てないというプレッシャーで、有能な女子選手が若いうちに引退しているという指摘もある。実際、4年前の平昌五輪で金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワは、17歳で事実上の引退を表明した。もっと若くて、4回転を跳べる可能性のある選手に道を譲らなくてはならなかったのだろう。
それでもトップクラスの選手たちは、「4」の次の「5」を目指す。だが、思春期を過ぎて「大人」の体形になった女子選手には4回転すら難しいとすれば、男子でも5回転は肉体的に不可能かもしれない。羽生でさえ、まだ4回転半も成功できていない。5回転など、とても......と思ってしまう。
フィギュアスケートの物理学に詳しい米イサカ大学のデボラ・キング教授(運動科学)も、「5回転ジャンプは物理的・身体的な限界への挑戦だと思う」と言う。
理論的には可能だけれど
なぜ限界なのか。ジャンプで回転するには、垂直方向に高く跳ぶと同時に、水平方向にも急速に回転しなければならない。だが、スケートで氷を蹴って生み出せるエネルギーには限界がある。限りあるエネルギーを回転に使えば、ジャンプの高さが出ない。
ならば、もっと筋力を鍛えればいいと思われるかもしれないが、必ずしもそうではない。筋力があれば、確かに高くは跳べる。だが、水平方向の回転速度は上がらない。仮に氷面に傾斜をつければ、滞空時間が伸びて5回転も可能になるかもしれないが、それはこの競技に似合わない。
ジャンプに関する物理学的な考察は、これまで多くの論文でなされている。そのほとんどが、5回転ジャンプは理論的には可能だが、途方もなく困難と結論付けている。そのとおりだろう。だが本当の問題は、死に物狂いで5回転ジャンプを跳んだとして、それで観客が喜ぶかどうかだ。
まず、採点に関するテクニカルな問題がある。ジャンプの場合、申告した回転数より4分の1から2分の1回転足りないと、回転不足と見なされる。言い換えれば、4.5回転を少しでも超えれば5回転と認められる(ただし満点をもらうには4.75回転以上が必要)。北京五輪での羽生は、クワッドアクセルの判定基準にわずかに及ばなかった。つまり4回転は超えたが、4.25回転には届かなかった。だから「失敗」とされた。
空中での回転不足を補うため、踏み切る直前に体をひねり始める選手もいる。これはプレローテーション(プレロテ)と呼ばれ、もちろん減点対象だが、回転不足と比べて判定しにくいので見逃されやすい。でもプレロテ+4.25回転で5回転と言われても、誰も納得しないだろう。