最新記事

スポーツ

フィギュア5回転ジャンプ...物理的「限界」への挑戦と、「芸術性」軽視の批判

An Impossible Dream?

2022年3月2日(水)17時10分
マディ・ベンダー(科学ジャーナリスト)

見栄えは大して変わらない

観客に与える印象の問題もある。フィギュアはスポーツであると同時に演技でもある。運動能力の高さと、見た目の美しさ・楽しさの両方が問われる。この両者は、必ずしも一致しない。

そもそも、氷を蹴ってから空中に浮かんでいる時間は1秒に満たない。だから目視で4回転を数えることなど不可能に近い(ジャッジは映像で判定している)。1回転増えたからといって、見栄えは大して変わらない。

スケートにおける5回転の話は、北京五輪のスノーボード男子ハーフパイプで物議を醸した議論と似ている。五輪の舞台で初めて披露された大技「トリプルコーク」の判定をめぐる話題だ。

結果としては、日本の平野歩夢が3度目のランでトリプルコーク1440を成功させ、金メダルに輝いた。しかし平野は2度目のランでも同じ技を一見完璧にこなしていたのだが、得点は伸びなかった。どう見てもおかしいと、米NBCテレビの実況で解説をしていた元選手のトッド・リチャーズは激怒した。

フィギュアの5回転ジャンプも、高得点に直結するとは限らない。また5回転ばかりが注目を浴びれば、フィギュアの芸術性や技術面の精度を重視する人たちから苦言が出るだろう。イサカ大学のキングも、「今のフィギュア界は芸術性よりも運動能力に重点を置きがちで、もはや昔とは別の競技のように思える」と嘆く。

個々の選手が自分の肉体的限界に挑戦するのは素晴らしいことだ。でも、それならジャンプだけでなく、他の要素の技も磨くべき。難しいステップの組み合わせや、スパイラルシークエンスのような柔軟性とショーマンシップの表現、そして独創的なスピンなどだ。これらの要素がジャンプと同じくらいに評価されるなら、成熟した体形の女性でもこの競技で活躍できるかもしれない。

国際スケート連盟(ISU)が現行の採点方式を見直すとは思えない。だが観客が本当に見たいのは、私たちに最高の感動を与えてくれる演技ではないか。そして私は、ジャンプの回転数に感動するタイプではない。

©2022 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中