中国人監督の『ノマドランド』がアカデミー賞有力候補...なのに中国人が全然喜ばない理由
Chloe Zhao Tipped for Oscars Glory, Falls Foul of Country's Censors
クロエ・ジャオ監督(4月22日) Film Independent Spirit Awards Handout via REUTERS
<2月のゴールデン・グローブ賞のときには大盛り上がりだったが、突如としてジャオ監督は中国の大敵になった>
4月25日に迫ったアカデミー賞の発表だが、中国では異常なほど盛り上がっていない。その背景には、本来なら中国で最大の注目作になるはずだったクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』に関する投稿が、中国最大のソーシャルメディアプラットフォーム「微博(ウェイボー)」から締め出されている事情がある。同作は、作品賞などにノミネートされている。
2月に発表された第78回ゴールデン・グローブ賞では、この作品が映画部門の作品賞を、監督のジャオが監督賞を獲得した。その後、ノマドランドの中国語タイトルである『无依之地』から生まれたハッシュタグは、9000万回近い閲覧数を記録した。
ジャオ(中国語名は趙)は北京生まれで、同賞を受賞した初のアジア系女性となった。その快挙は、全国民の勝利として中国で祝福されていた。
だが、その1週間後に発掘された8年前のインタビューのなかで、中国に対して批判的ともとれる発言をしていたことから、ジャオは突如として中国社会の大敵になった。
中国版ツイッターとも言える微博では、ノマドランドのハッシュタグが消えた。1カ月あたりのアクティブユーザー数が5億人を超える微博サイトを検索しても、なんの結果も表示されない。ハッシュタグのない投稿は散在しているが、フォロワーなどからの反応はほとんどない。
「いたるところに嘘がある場所」
現在は39歳でアメリカに住むジャオは、15歳のときにロンドンの寄宿学校で学ぶために移住し、ロンドンの高校を卒業。その後、米マサチューセッツ州の大学で学んだ。
問題になった2013年のインタビュー(現在はウェブアーカイブでのみ閲覧可能)は、ニューヨークの雑誌「フィルムメーカー」によるもので、ジャオはそのなかで、中国を「いたるところに嘘がある場所」と形容している。
「絶対に逃げ出せないような感じがした。わたしが若いころに得た情報の多くは、真実ではなかった。だから、わたしは家族や自分のバックグラウンドに対して、とても反抗的になった」とジャオは話している。「突然のようにイギリスへ行って、自分の歴史を学びなおした」
ジャオの発言は、中国に対する侮辱とみなされた。それまではジャオの才能をめぐって行われていた議論はすぐに、彼女の市民権についてや、母国に対する誇りと忠誠心の欠如をめぐるものに変わった。ゴールデン・グローブ賞での快挙を報じ続けていたメディアは批判的なコメントであふれ、なかにはジャオを「裏表がある」と評するものもあった。