岡田晴恵:訪日客急増の2020年、感染症は「今そこにある危機」になる可能性
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アウトブレイクの危機が世界中であり得ることを啓発
現在、ラグビーのワールドカップで盛り上がり、来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。国際的なイベントの開催それ自体はとても良いことでしょう。ただし、物事にはプラスとマイナスの両面がある。2020年には訪日外国人4000万人と言われていますが、それは同時に、さまざまな国から病原体がやって来るリスクでもあります。感染症には潜伏期というものがあるので、渡航者が感染をまだ自覚せず、症状が出ないうちに入国・帰国することもある。空港の検疫では、サーモグラフィーカメラで発熱患者を検知できますが、症状の出る前では当然わかりません。エボラウイルスの潜伏期は最長で21日くらいあります。この高速大量輸送の時代、潜伏期間中にウイルスが上陸してしまうのは、エボラの緊急事態宣言が出ている中で、想定内です。
こうした状況、東京五輪まで1年を切ったこの時期に、ドラマ『ホット・ゾーン』が日本で放送されるのは、啓発の観点からも大変有意義だと思います。私はドラマの原作本を原書でも翻訳でも読んでいますし、また感染症学に携わる者として一般の方向けに新書なども書いているのですが、活字離れは深刻で、残念ながら本というものは一定の割合の人にしか読まれないのです。本以外にも、自費で感染症について啓発するカルタを作ったり、感染症をテーマにしたNHKのラジオドラマの脚本と監修を務めたりと、感染症の啓発としてできることをやってきたつもりですが、効果は薄い。まだ、感染症に対する一般の関心は低く、国民的な備えは不十分です。事実、現在進行中のエボラ流行などに関するメディアの報道も低調です。
そうした活字などに比べて、映像の影響力はとても強く、普及が期待できます。先述のように、私が見て過呼吸になるぐらいにリアルな映像ですから、インパクトが非常に強いドラマと言えるでしょう。21世紀の現代は、こういう事態があり得るのだ、ということは認識してほしい。
──『ホット・ゾーン』をこれから観る方に、どんな教訓を学んでもらいたいと思いますか。
21世紀の人口激増、高速大量輸送時代の感染症のアウトブレイクは、これが現実だ、ということです。ドラマの中にも「モンスターは必ずまた戻ってくる」という言葉が出てきます。過去の事例、よその国の出来事ではなく、あした日本にウイルスが入ってきて感染爆発が起きてもおかしくないのだと認識したうえで、ドラマのサスペンスや登場人物たちの奮闘を観てほしいですね。まずはなるべく多くの方に関心を持ってもらうことが、危機に備える第一歩になるのではないでしょうか。
文:高森郁哉 写真:片山貴博
岡田晴恵
医学博士。専門は感染免疫学、ウイルス学。ドイツマールブルク大学医学部ウイルス学研究所客員研究員、国立感染症研究所研究員を経て、現白鴎大学教育学部特任教授。著書は『なぜ感染症が人類最大の敵なのか?』(ベスト新書)、『エボラVS人類 終わりなき闘い』(PHP新書)など多数。『感染症カルタ~うつる病気の秘密~』(奥野かるた店)を制作したり、NHKラジオで今夏放送されたドラマ『室井滋の感染症劇場』(インターネットで聴取可能 https://www.nhk.or.jp/radio/anshin/kansensho/)の脚本と監修を務めるなど、感染症についての啓発活動を行っている。
【作品紹介】
致死率90%と言われたエボラウイルスがアメリカ本土で初めて見つかった衝撃的な事件を、当事者たちの協力を得てナショナル ジオグラフィックが総力を挙げて克明に描いた全6話のドラマシリーズ。有効なワクチンも治療法もない未知の恐怖に直面した人たちは、いかにして危機を乗り越えたか。一度観始めたら止まらない緊迫のノンストップ・サスペンス大作だ。
【視聴チャンネル&放送日時】ナショナル ジオグラフィックにて放送。
放送開始日時:二ヶ国語版:10月15日(火)スタート 毎週火曜22時~ ※2話連続放送
字幕版:10月16日(水)スタート 毎週水曜21時~ ※2話連続放送
詳しくは:https://natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2662