最新記事

インタビュー

「恐竜博2019」は準備に3年! ググっても出てこない舞台裏をお見せします

2019年8月9日(金)12時15分
石﨑貴比古

1969年、イェール大学の恐竜学者であるジョン・H・オストロムが同大ピーボディ自然史博物館の学術誌『Postilla』にデイノニクスの新種記載論文を投稿した。オストロムは60~70年代の恐竜研究を牽引した偉大なる恐竜学者。真鍋さんの恩師でもあり、個人的にも非常に愛着のある展示のようにお見受けした。

「今年はオストロム先生がデイノニクスを命名して50年目に当たります。デイノニクスを研究することで、先生は恐竜が高い代謝率を持つ温血動物であったこと、敵に対してとび蹴りを繰り返すような俊敏さと持久力を持っていたことなどを推定しました。

さらにデイノニクスの手首の骨を見ると左右に動く形をしており、ちょうど鳥類が翼を広げる形とそっくり。デイノニクスのような恐竜から始祖鳥のような存在へ進化し、さらに鳥になる。この化石を起点として恐竜は現在も絶滅していないという構図が明らかになりました。『恐竜ルネッサンス』の始まりとなった記念すべき標本なのです。しかも所蔵先のピーボディ自然史博物館ですら展示室に出されていなかった非常に貴重な標本で、おそらく日本には二度とやってこないでしょう」

dinobook190809-8.jpg

Newsweek Japan

恐竜に関わる仕事は研究員や学芸員だけではない

標本の貸し出しは研究者同士の人間関係によるところが多い。その点、温厚でユーモアに富み、誠実な真鍋さんは世界中の研究者と強固なネットワークを構築し、標本の貸し借りを円滑に進めることで定評がある。

「化石の貸し借りに関する問題を解決するのは展示監修者である私の仕事。貴重な化石を運ぶのにはいくつものハードルがあります。まず移動の途中に壊れたりなくなったりするリスクがある。さらに標本が不在の間、研究者たちが参照することができなくなる。

これは博物館の研究セクションにとって大きなマイナスで、本展のように3カ月の貸し出しとなると一筋縄ではいきません。今回は綺麗でかっこいい展示台を作り、これを返却の際に進呈するという条件が効いたようです」

真鍋さんは恐竜に関わる人々の中でも「花形」である恐竜学者だが、目には見えないタフな交渉を一手に引き受けたり、自身でも黒子的役割を積極的に担い、その活躍ぶりは多方面にわたる。東日本大震災の直後から続けている陸前高田などにおける標本のレスキュー活動もその1つ。この活動で真鍋さんは「博物館」という場が持つ力に改めて気づかされたと言う。

「地元の博物館に通っていた小学生が大学院生になり、スタッフとなる。地元の恐竜ファンを取り込み、彼らが博物館を支える人材として育つような仕組みが重要になってくるのでしょう。国立科学博物館にもかつては『技官』というポジションがあったのですが、この部分の人材がどこの博物館でも不足しています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、巡航ミサイル発射訓練を監督=KC

ビジネス

午前の日経平均は反落、需給面での売りで 一巡後は小

ビジネス

利上げ「数カ月に1回」の声、為替の影響に言及も=日

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中