最新記事

BOOKS

吃音の人と向き合うときに知っておきたいこと

2019年1月21日(月)19時22分
印南敦史(作家、書評家)

例えば、友達と会話をしているとき、「今、自分がこう言えば場が盛り上がるのに......でも、自分には吃音がある......どもりながら言葉を発する勇気がない」と、吃音を理由に言いたい言葉を封印してしまうケースが多いというのである。

しかしこれは、吃音者が他人に対して必要以上に気を遣っているということでもある。

また、会話の中に入っている場合はまだしも、会話の輪から逃げてしまう吃音者もいるという。「こんな集まりがあるから、今度行こうよ」と誘われたとしよう。そんなとき、吃音のある人はまず、「自己紹介はあるのだろうか? どもったらどうしよう」という思いが強くなり、行くことをためらってしまいがちだというのである。

もちろんそれは、社会人になってからも同じだ。

上司に報告しなければならない事案があったときでも、「うまく報告できるかな、うまく言えなかったらどうしよう」と考えてしまうと、なにかと理由をつけて報告を先延ばしにする傾向が吃音者にはあるというのだ。だとすれば、「あの人は不誠実な人だ」と思われてしまうことも考えられるだろう。

つまり吃音者の多くは人一倍、相手に気を遣っているのに、それが裏目に出るばかりか、自分自身への自信をどんどんなくしてしまうケースが多いということである。

ところでコミュニケーションは、基本的に話し手がいて、聞き手がいる二人の関係で成り立っているものだ。当然ながらそれは、吃音のある人でも同じ。そして吃音のある人は、聞き上手な人を敏感に見分けているのだと著者は言う。

そのような観点から本書では、吃音者が話しにくいと感じている人の傾向が挙げられている。


・大きな声で感情的に怒る人
・吃音が出たときに馬鹿にする人
・こちらが話をしているのに、話を最後まで聞かず、自分の話題に変える人
・せっかちな人
・自分が話したのに、リアクションがない人
・「ゆっくり話しなさい、深呼吸して話しなさい」など、話し方のアドバイスをする人(199ページより)

また、吃音のある人によって感じ方は違うものの、

・吃音が出ているときに、良かれと思って言葉の先取りをする人

も、場合によっては話しづらいと感じている場合があるそうだ。このことに関しては、著者自身の経験が明らかにされている。

「お、お、お、お......」と言葉に詰まっているとき、「おんせん?」と言葉を先取りされたというのである。ところが言いたかったのは「おおいた」だったため、相手の言葉を訂正し、最初から自分の言いたいことを伝え直さなければならなかった。しかも経験上、言葉を先取りする人の半数は間違えていたのだそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中