最新記事

米メディア

ワシントン・ポストの女性社主が小型ヘリに乗り、戦場を視察した

2018年3月30日(金)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ニューデリーからの夜間飛行で、油田の廃油燃焼の火が砂漠を焦がすベイルートに到着した。ベイルートはまだ戦火に見舞われておらず、美しい街並みが広がっていた。レバノンの人びとは、私たちが滞在している期間中ずっと、エジプトの指導者ガマル・アブデル・ナセルを論駁してやまなかった。

レバノンから私たちはエジプトに飛び、そこでナセルその人にインタビューしたのだが、この会見が大きな誤解を生むことになるとは思ってもみなかった。中東地域の評判では、ナセルは東側陣営を西側陣営に対抗させ、この冷戦構造からエジプトのみ漁夫の利を得ようと画策する人物とされていた。ちょうど一カ月ほど前に、東ドイツ大統領ワルター・ウルブリヒトがカイロを正式訪問したあとのことだったので、インタビューの中で私たちはナセルに対して、ウルブリヒトを招待するにあたってはソ連からの圧力があったのではないかと質問した。ナセルは勢い込んで否定した。しかし間の悪いことには、インタビュー後数日して発売されたニューズウィークには、ナセルの発言とはまったく逆の記事が掲載されたのである。

この記事は、私たちのインタビューとはまったく関係のない情報源から書かれたもので、発行前に見る機会はなかったし、当時ベイルートにいたニューズウィークのスタッフも目にしていなかった。私たちもインタビューの一部を電送しようと試みたのだが、ニューズウィークの記事に入れてもらうには間に合わなかった。私たちのインタビュー記事は、数日後にポスト紙上で正確に発表されたのだが、その時までにナセルは烈火のように怒り狂っており、私たちのことを「人の名を汚すことしか考えない噓つき」と決め付けていた。どんなに説明しようとしても聞き入れてもらえない。結局、そのような故意でない過誤や混乱については、不本意ではあってもある程度は潔く認め、個人としては悩まないことを学んだのが収穫だった。

その後、ローマとロンドン――そこでは休養をとり、パーティーに出席した――を経由して、私たちは帰国の途についた。ローマでは、魅力的なイタリア人のジャーナリストと行きずりの恋をしたのだが、後日パム・ベリーが次のような手紙をくれて励ましてくれた。「時々は女性になりきって、自由で軽薄に振る舞う必要があると思います。そうすることは、きっとあなたのために非常に良い結果を生むでしょう。私は、あなたが仕事の人身御供となってしまうのではないかと、ずっと心配していました。しかし、先週木曜日にカウリー通りを歩いておられるのを拝見しましたが、以前とは全然違って見えたのにびっくりしたのです。その時はなぜあなたが変身したのか知らなかったわけですが」

私はこの旅行の間中、それまでにしたことのないほど激しく働いた。しかし、決して疲れることはなく、それどころか経験することすべてが私に力を与えてくれた。そして、私は以前にも増して仕事に対するエネルギーと意欲に燃えて帰国したのである。

※第3回:ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話


『ペンタゴン・ペーパーズ――「キャサリン・グラハム わが人生」より』
 キャサリン・グラハム 著
 小野善邦 訳
 CCCメディアハウス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中