最新記事

米メディア

ワシントン・ポストの女性社主が小型ヘリに乗り、戦場を視察した

2018年3月30日(金)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

「ヒューイ」と愛称がつけられていた、ベルUHIB型ヘリコプターに搭乗するなり、私たちは、小さなキャビンに設置された座席が横並びのベンチのようなもので、機体にドアなど付いていないのに気がついて仰天させられた。ドアがないため座席に座ると私たちの足は機外にはみ出そうになるのである。私の席はパイロットの真後ろで、皆に見られていたこともあり、このぐらいのことは日常茶飯事であるかのように振る舞って平静を装うのに苦労した。ヘリがドア無しで離陸した時には、やはり息を呑んだ。後部両側座席の兵士たちは、装弾されたマシンガンをいつでも発射できるよう身構えており、私たちはさらにぎょっとさせられた。

ヘリはおよそ二五〇〇フィート程度の低空を、水田や畑をかすめて飛行した。同行した陸軍広報担当少佐の説明では、眼下に見える家々はすべてベトコンのシンパの家だということだった。政府系の住民は塹壕と有刺鉄線で厳重に囲まれた集落の中にかたまって住んでおり、これらの集落もいくつか散見することができた。しばらく飛行を続けると、ヘリは小規模なヘリコプターパッド〔離着陸設備〕に到着した。パッドは小さく、二機のヘリでいっぱいになる程度だった。パッドのある山は、主として海兵隊員で構成された米軍事顧問の特殊部隊によって保持されていた。待っていてくれたのは、スティーヴ・キャニオンのような風貌の将校で、ソードリン中尉といった。中尉によれば、その当時でも米軍と南ベトナム軍の関係はうまくいっておらず、成果を評価できるようになるには、少なくともあと五年はかかりそうだという。

この山頂には一三名の米軍兵士と、約一〇〇名の南ベトナム軍兵士が駐留していた。施設周辺は有刺鉄線と機関銃座によって囲まれていた。案内役の将校の話では、この区域は比較的安全で、攻撃を受ける危険性はあったものの、実際には驚くべき平和が続いているとのことであった。食料となる運命を赦免された七面鳥が、ペットとして飼われていた。ベトナム兵たちは、この七面鳥の首に特殊部隊を表わす赤のスカーフを巻いてやっていたので、施設内部がすべて彼の領土であるかのように、我がもの顔でのし歩いていた。

見学が終わって、いよいよ離陸する段になって、米軍兵士の一人が次のように忠告してくれた。つまり、ここは山頂なので、離陸直後ヘリコプターは一時的にではあるが急激に下降するというのである。この忠告は非常にありがたかった。私の逆立った神経を和らげるにはあまり役立たなかったが、安全高度に達するまで、機関銃座の配置に付いた兵士たちが必死に武器にしがみついて緊急事態に備えるのを見ながら、胃の腑が落ちそうになるのを少しは理解できたからである。

ふだんの私であれば、エレベーターに乗るのさえ少し躊躇するところなのに、ヘリコプターに搭乗するたびにパニックに陥らずに済んだのは、南ベトナムの現実をもっと詳細に知りたいという好奇心の方が大きかったからだろう。いずれにしろ、私はメコン・デルタの和平工作が順調に進んでいるとされる二つの集落を、ヘリコプターで訪れた。

また私たちは、キエン・ホア県の県都であったベン・ト市まで飛行し、そこから自動車で近郊のビン・グエン村まで足を延ばした。その村では、楽観的ではあるが決然とした態度の県知事チョー大佐と会談した。チョー大佐は、村落においていかにして勢力の拡大を計っているかを語ってくれたが、一方で彼は、ベトコン勢力が二〇年間にわたってインフラストラクチャー〔基幹施設〕の整備と住民教育を進めていることなども話した。しかしながら、米軍事顧問や南ベトナム軍幹部たちは、未だに事態は有利に推移していると考えているらしかった。私の記憶する限りでは、ただ一人の米軍大佐だけが、ベトコンがあらゆる地域に出没していることに注意を喚起しながら、いかなる犠牲をはらっても侵入を阻止する決意を明らかにしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、FRB利下げ予想12月に前倒し

ビジネス

インフレ2%維持には非エネルギー価格の減速必要=レ

ビジネス

長城汽車、欧州販売年間30万台が目標 現地生産視野

ビジネス

第一生命HD、30年度利益目標引き上げ 7000億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中