被害者遺族を「カラオケに行こう」と誘う加害者の父
出所後「事件を小説にする」と言う少年から、非常識で異常な親まで、被害者に苦痛を与え続ける少年犯罪の加害者たち
『「少年A」被害者遺族の慟哭(小学館新書)』(藤井誠二著、小学館新書)は、少年犯罪問題に詳しいノンフィクションライターによる新刊。タイトルを見たときは「元少年A」についての新たなルポであるかと誤解してしまったが、そうではなく、少年犯罪の現状と問題点を、より広い視野で捉えている。
ずしんとした重みを感じさせるテーマは、被害者遺族にのしかかる精神的苦痛、そして少年犯罪についてまわる「少年法」の問題である。特に精神的苦痛はすぐに収まるような性質のものではなく、しかもクローズアップされることは少ないだけに、ここに重きを置いたことについては強く共感できる。
加害者は再犯をしないことが更生だとされる。それはたしかに大事なことだが、しかし、それだけでは足りない。被害者や被害者遺族に、二次的、三次的な精神的苦痛を与えるような行為を、絶対にしない生き方を選択することも、贖罪の大事な要素なのだ。(4ページ「はじめに」より)
ところが、現実にはうまくいかないことも多い。これは少年犯罪に限ったことではなく、犯罪全般にいえることかもしれない。が、いずれにしても、こちらからすれば「なにを考えているのだか理解に苦しむ」ような人が現実に存在するからだ。そして、それは"治る"ものではないケースが少なくない。だから、絶対的な解決策はないのだ。本書を読んで、そのことを改めて痛感した。
たとえば、以下の手紙がいい例だ。交際を申し込んで断られた女性にストーカー行為を繰り返すなかで殺意を醸成させ、最終的に彼女を刺殺した少年が、医療刑務所出所後に被害者遺族に宛てたもの。驚くべきことに、自らが引き起こした事件を小説にしたいというのである。この発想は「元少年A」に酷似しているが、事実、彼はのちに「酒鬼薔薇聖斗」からの影響を認めている。
「おもしろい小説を書きたいので、ふざけた小説にするつもりです。ですから永谷様が読むとあまりの内容に憤死してしまうでしょう。ですから永谷様は読まないほうがいいでしょう。誰にどう思われようと、僕が小説を書くことを辞めさせる権利は誰にもありません」(89ページより)
拘置直後に被害者遺族に宛てた手紙には「できるだけ長生きしたい」とも書いていたというが、この少年の感覚は"普通の感覚"では理解しがたいものだ。しかし彼だけの問題ではなく、こういうタイプは決して珍しくないのかもしれない。すなわち、我々の周囲に"理解不可能な人たち"がゴロゴロいることが、本書を読み進めていくと明らかになる。
さらに、気づくことがもうひとつある。本書で明らかにされているさまざまな実例を確認する限り、彼ら加害者は決して「突然変異的に生まれてしまったモンスター」ではないのかもしれないということだ。