最新記事
ブレインフィットネス

脳を健康にするという「地中海食」は本当に効果があるか

2015年11月10日(火)18時16分

 複合糖質(自然食品に含まれていることが多い)はゆっくりと分解されながら、脳に供給される。それに比べて、単純糖質(ほとんどの加工食品や甘い食品に含まれている)はすばやく分解され、血液の流れのなかに急激に放出される。

 甘い食品が血糖値を急上昇させ、すばやく脳を活性化させる理由はここにある。しかし、その効果は長続きしない。それは、血液中から過剰なグルコースを抜き取ってのちの使用に備えて貯蔵するよう、インスリンホルモンが細胞に向かってシグナルを出すからだ。ところが、ほかの細胞と違ってニューロン(神経細胞)にはグルコースを貯蔵する力がなく、脳内にある燃料(グルコース)が枯渇すると外から補充するしかない。

 私たちの脳は機能するためにグルコースを必要とする。そのグルコースを手に入れるための方法はいくつかあるが、加工食品や砂糖が多く含まれた食品より、自然由来の食品のほうが長く安定的に使える燃料の源泉になる。このように、どんな食品からグルコースを摂るかが脳の働きに重要な影響を与えている。また、これから述べていくが、ブレインフィットネスというパズルを完成させるための重要なピースとなる栄養素は、グルコースのほかにもいくつかある。

 同時に、「脳は私たちが食べたものでできている」といってしまうと少し誇張が過ぎる。なぜなら血液脳関門が脳内に通す栄養素を選別しているからだ。そのため、食べたものが残らず脳に届くわけではない。さらに、この本を通じて見ていくことになるが、脳に影響を及ぼす要因はほかにも多い。栄養素はパズルの一片に過ぎないのだ。

栄養素が脳に及ぼす影響

 食べたものは比較的すぐに認知機能に影響を与えるのだろうか? 答えはイエスと言ってよいだろう。摂取した食品が血糖値を上げ、記憶力やそのほかの認知機能を良くすることを示すいくつかの研究があるからだ。たとえば、高齢の健康的な被験者に12時間の断食をさせ、ふたつの群に分け、ひとつの群には50グラムのグルコース、もうひとつの群には50グラムのサッカリン(プラセボ)を摂ってもらった研究がある。プラセボ群と比べ、グルコースを摂取した群は、注意制御を含む認知課題において処理速度が改善する結果を残している。

 ふだん好んでいる食習慣は、認知力に長期にわたる影響を与える。

 脳を健康にする食事法として、このところ、地中海食が頻繁にニュースになる。地中海食は、一般的に、野菜、フルーツ、シリアル、不飽和脂肪酸(ほとんどがオリーブオイルの形で摂取される)をたくさん、乳製品、肉、飽和脂肪酸は少なく、魚は適度に食べ、適量のアルコールを定期的に摂るものだ。この地中海食が、身体的な健康だけでなく脳の健康にも影響を及ぼす。アルツハイマー病になるリスクを減らし、認知力の低下を遅らせることがいくつかの研究によってわかっているからだ。このことは、最近の国立衛生研究所のメタ分析でも確認されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中