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シアター「オズ」の魔法よ、よみがえれ
ミュージカル映画の傑作を「魔法使い」ロイド・ウェバーが舞台化
虹の彼方に 映画でドロシー役を演じたジュディ・ガーランド Turner Theatrical
作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーは上機嫌だ。スケジュールはびっしり(常に専用のタクシーを待機させている)。忙しいのが性に合う。
先日は病院のチャリティーイベントと議会(ロイド・ウェバーは英上院議員でもある)を掛け持ち。けさはヘルメットをかぶって、築100年になるロンドンのパラディアム劇場の修復工事を視察中だ。ロイド・ウェバーは自ら所有するこの劇場に、100年前の壮観さをよみがえらせようとしている。「完成する頃には破産しているかもしれないが、構わない」と熱く語る。「好きでやる仕事だから」
ロイド・ウェバーはその熱い思いを最大限に尊重するつもりだ。改装後真っ先に上演されるのは、自ら手掛ける『オズの魔法使い』。2月7日のプレビュー公演では、素晴らしいキャストがオズへ続く黄色いレンガ道に一歩を踏み出した。
『オズの魔法使い』は62歳の作曲家の最新作。昨年開幕した『オペラ座の怪人』の続編『ラブ・ネバー・ダイズ』に続く、18本目のミュージカルだ。皮肉にもこの作品は、彼の最近の独創的な実験──テレビでの試み──のたまものでもある。
この数年間、ロイド・ウェバーはイギリスのテレビで(ばかでかい王座に座って)審査員を務めている。ウェストエンドの有名ミュージカルに主演する新人を発掘する番組だ。視聴者が増えるにつれてオーディションに応募する若者も増加した。主人公のドロシー役のオーディションには約1万2000人が参加(18歳のダニエル・ホープが栄冠に輝いた)。生涯をミュージカルにささげてきたロイド・ウェバーにはうれしい反応だ。
「テレビではまったく違うコミュニケーションができることに驚いた」と、ロイド・ウェバーは言う。「番組のおかげで新しい世代が演劇に目を向けている。ミュージカル人気が復活した」
映画版の「穴」も埋める
『オズの魔法使い』の人気が復活するとしたら、それができるのはロイド・ウェバーだ。ロイド・ウェバーは39年の映画をそのまま舞台化して済ませる気はない。新曲をいくつか追加した。作詞はアカデミー賞を受賞したティム・ライス。大ヒット作品を生んだコンビの数十年ぶりの復活だった。
オズの物語は何度も舞台化されている(ロイヤル・シェークスピア劇団版や黒人キャストのミュージカル『ウィズ』など)。しかし少なくともロイド・ウェバーの基準では、どれも完全な成功とは言えない。
「舞台作品として確立されているわけじゃないから気が楽だ」とロイド・ウェバー。「過去の舞台版は映画でカットされた曲もいくつか入れる程度で済ませていた」。映画にはひどい「穴」もあった。例えば西の悪い魔女や占い師のマーベル教授の曲は1つもない。「私はその穴を埋めようとしているだけだ」
それでも難題には変わりない。『オズの魔法使い』はアメリカ文化において重要な位置を占め、映画ファンに愛されている。1900年のライマン・フランク・ボームの原作童話は、映画化されるはるか以前から不動の人気を誇っていた。
ハロルド・アーレンが手掛けた映画版の曲、特に「虹の彼方に」(「20世紀最高の名曲と言えるだろう」とロイド・ウェバーは言う)は、若きジュディ・ガーランドをスターにするのに一役買った。映画はMGMが発明したテクニカラーを引き立たせもした。映画の最初と最後はモノクロだが、オズの国のシーン(実はドロシーの夢)は鮮やかな色彩に満ちている。
ファンは何世代にもわたり、この単純な物語に豊かで寓話的な意味付けを行ってきた。ロイド・ウェバー自身はドロシーの冒険は道徳的なものと考えている。「別の世界を見つけ、試練を受け、豊かになって元の世界に戻ってくる話だ」
自分の体験とどこか重なるのかもしれない。作曲家になって45年、ロイド・ウェバーはエンターテインメント界のあらゆる賞を総なめにしてきた(トニー賞7回、ローレンス・オリビエ賞7回、グラミー賞3回、アカデミー賞1回など)。オックスフォード大学を中退して作曲家の道を歩みだして以来、世界中の劇場をたいてい満員にしてきた。『オペラ座の怪人』の観客動員数は世界で推定1億人を超え、『キャッツ』はロンドンで21年間ロングランされた。
おかげでイギリスでは推定7億ポンドの富と、作曲家としては異例の名声を手に入れた。次は新たに発見したテレビでの才能を生かし、19世紀の芸術家グループ、ラファエル前派に関するドキュメンタリー番組の進行役に挑戦する予定だ。
「演劇は究極の共同作業」
ロイド・ウェバーは、父親は作曲家、弟はチェロ奏者という音楽一家で育った。メロディーはすぐに浮かぶ。プロットさえあればいい。「メロディーで苦労したことは一度もない。ストーリー中心に作曲するので、どこにメロディーを入れるかだけが問題だ」
しかしインテリからは理解されない。「私はローラースケートを履いた電車のミュージカルも(亡き父にささげたような)レクイエムも作曲できるんだが」とロイド・ウェバーは言う。「私にとっては自然なことだ。頭がぱっと切り替わる」
実際、じっとしていられない性分が災いしたこともある。04年の『ウーマン・イン・ホワイト』はスケジュールの空白を埋めたくて引き受けた仕事だったが、結果は失敗だった。
曲だけがショーの成功の決め手ではないことも正直に認める。「演劇は究極の共同作業。振り付けが決め手になる場合もあれば、デザインが決め手になる場合もある」
それでも昔のパートナーの復帰は心強い。ライスとは学生時代に出会い、71年の『ジーザス・クライスト・スーパースター』や78年の『エビータ』などヒット作を生み出した。コンビ解消後もライスへの称賛は変わっていない。「ティムは特別だ。ティムの歌詞はすぐ分かる」
コンビ復活は栄光の日々の復活を意味するかもしれない。少々の自信とたっぷりのエネルギーがあれば、「虹の彼方に」の歌詞にあるように「どんな夢もきっとかなう」。
[2011年3月 9日号掲載]