最新記事

コロナストレス 長期化への処方箋

第2波でコロナ鬱、コロナ疲れに変化、日本独自のストレスも

2020年8月22日(土)12時45分
西多昌規(早稲田大学准教授、精神科医)

セルフケア能力がカギに

長期化するCOVID-19は、メンタルヘルス的にも社会的「分断」を強化している。会社に通わずとも、自宅でのリモートワークで収入は安定している業種がある一方で、レジャー・飲食業やフリーランスのように、収入減少が直撃している人たちもいる。既に身体や精神の疾患・障害を持っている人たちは、より不利な立場に追いやられ、続発性の状態悪化が生じやすい状況にある。 不妊治療や出産を控えている人は、気が気ではないだろう。

これに、政策や報道の「分断」も、人々に不安を与えている。感染対策と経済推進は二律背反であり絶対解のない問題であることはわかる。しかし、政府のGo Toキャンペーンなど積極的施策と、地方自治体は独自の自粛策や不要不急の域外への外出制限など防衛的な施策とを見るに、バラバラで一貫性があるとは思えない。報道も然りで、検査方針については、PCR推進派とPCR抑制派とで主張が「分断」され、何を信じていいのか分からなくなっている。

「自粛警察」に見られる社会的同調圧力と偏った正義感という脅威が、メンタルヘルスに陰ながら影響を与えている。自分たちの組織から陽性者が出た場合に謝罪するという行動に象徴されているように、COVID-19自体での病原性よりも、「感染したらアウト」と社会的に断罪され「分断」されるスティグマ(差別や偏見)のほうが、メンタルヘルスにとっては脅威である。

都市部と地方との「分断」も深刻である。もとより格差の大きい医療体制、高齢化率の高さや社会の寛容性などでは、都市部と地方の隔たりは大きい。陽性者がいったん出現すれば、自宅に張り紙や投石されるという蛮行が見られるのも事実である。行政がいくら個人情報を伏せたとしても、インターネットでの検索ももちろんだが、地方ではどうしても社会が狭小で匿名性が低いため、個人が特定されやすく、噂も広まりやすい。地方では高齢者も多く、COVID-19に過敏にならざるを得ないところに、日本に古くから見られる、忌避すべき目に見えない恐怖を「ケガレ」として恐れる文化が、マイナスに機能している。

今回が第1波と異なる点は、緊急事態宣言のときは人々に「しばらく辛抱すれば」という希望があって押さえ込みに成功したのだろうが、第2波以降の長期化を控えては、自粛ばかりを続けていては精神的に持たないという点だ。過度な精神的抑制は、例えば我慢できずに友人と飲みに行ってしまう、油断してカラオケでマスクを外して歌ってしまうなど、逸脱行動のリスクが高まる。酒で憂さを晴らすアルコールの摂取量増加、乱用も、今後はいっそう懸念され、特に一人暮らしでは節制が利かなくなり、衝動的な暴力や自殺に結び付きかねない。

【関連記事】新型コロナ、若者ばかりが責められて「中高年」の問題行動が責められないのはなぜか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中