最新記事

対談

50代の「オジサン」がAI時代を生き抜くにはどうすべきか?

2018年5月11日(金)16時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

新井 そうなんです。ですから、AIが労働市場で活躍するようになると、現在年収700万〜1500万くらいを稼いでいる銀行員や薬剤師や営業職などが職を失う可能性が高い、ということなんです。そのときに、彼らが介護福祉士になろうとすると、国民全体の所得の中央値がものすごく下がります。それが問題です。

反対の言い方をすると、介護や農業のようなAIに難しい仕事に対して、人々がもっと高いお金を払い、それらの職種の人がもっと稼げるようにならないと、国がもたないのです。

もちろん、労働市場にも需給がありますから、そうした職種が人手不足となれば、状況は変わっていくのかもしれません。しかし、女性の給料がこんなにいつまでも上がらないことを考えると、今後5年くらいで急に介護福祉士の給料が銀行員と同じくらいになるかと問われても、それは正直現実的ではないでしょう。

加谷 そうこうしているうちに2025年がやってきますよね。団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者になって、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という、人類が経験したことのない超高齢化社会の到来まで、あとわずか7年に迫っています。

しかし、国の財政的に見ると、今の状況では介護現場の報酬を上げることは難しいように思えます。それこそ、消費税を20%や30%にするといった国民の合意がない限り、無理なのではないでしょうか。

新井 介護は難しいかもしれませんが、薬剤師を変えたら、かなり変わるとは思います。あそこには、かなりの税金がかかっていますからね。AIを導入することでラディカルに変革を起こすなら、薬剤師をAIに代替して介護福祉士に......というのは、ひとつの考え方だと思っています。

booktalk180511-3.jpg

新井紀子(あらい・のりこ)/国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。 専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など Newsweek Japan

AI時代、50代のセカンドキャリアとは?

加谷 今はホワイトカラーで給料もよくて、だけどそのうちAIに代替され得るような職に就いている人こそ、将来を少し心配したほうがいいでしょうね。最近では、シニア世代の「セカンドキャリア」についても注目が集まっていますが、具体的にはどういったスキルを身につけたらいいと思いますか?

新井 最近、企業の第一線で活躍されてきた50〜55歳くらいの方が、子会社の役員就任のオファーを断って起業したという話を周りでよく聞くようになっているんです。

今までは、55歳くらいで子会社の社長や役員として本社を出て2回分の退職金をもらう、というケースは結構あったと思います。そうした道を敢えて捨てて、自分のキャリアを生かして若い人の起業を助けようという方が増えているようです。

と言うのも、例えば工学部などを出たテクノロジー系の若い起業家って、法律のことは何も知らないじゃないですか?

加谷 はい、何も考えていないですね(笑)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中