最新記事
対中貿易

報復関税を科す前に中国貿易のパラドクスを解明せよ

CHINA’S TRADE PARADOX

2024年8月27日(火)12時22分
アルビンド・スブラマニアン(元インド政府首席経済顧問)
上海港に積まれたコンテナ

上海の港は現在世界一のコンテナ貨物量を誇る IN PICTURES LTD.ーCORBIS/GETTY IMAGES

<中国の輸出はなぜ通貨の上昇やアメリカの保護主義を物ともせずに増え続けたのだろうか。輸出補助金のせいか、それともEVなどの技術革新のせいなのか>

中国の貿易相手国がまたもや「不公正」な貿易慣行にいら立っている。焦点は中国が特に電気自動車(EV)などの新興分野で過剰生産した製品を安く輸出し、欧米の産業を損なおうとしているとの懸念だ。

だが各国は報復措置に訴える前に、輸出超大国中国の不可解なまでに強いレジリエンス(回復力)を理解するのが肝要だ。相手国が取引を規制し是正措置を講じても、中国の輸出シェアの拡大は止まらない。


中国の経済成長に貿易が果たした役割を数字で振り返ろう。1980年代半ばから2008年の世界金融危機までに、GDPに輸入が占める割合は14%から33%に拡大した。同時に経常収支(輸出超過額)はGDP比4%の赤字から10%の黒字に転じた。

2つの結果は開放政策を反映している。通常、輸入の対GDP比の上昇は関税の削減を含む貿易自由化の産物だ。鄧小平の改革開放政策以降、中国は内向きの姿勢を改め、2001年にWTOに加盟した。

一方、経常黒字は積極的な輸出促進政策に基づく。外国資本の流入を中国政府は抑え、中央銀行は競争力のある為替レートを維持するために余剰外貨を買い取った。その結果外貨準備高が膨れ上がり、2014年のピーク時には4兆ドルに達した。

中国政府は諸外国の不安に対応

貿易自由化と重商主義は、世界市場における輸出のシェアを着実に拡大させた。1985年に1%に満たなかった製造品輸出のシェアは2007年に12%まで上昇し、衣料品では50%という天文学的なレベルに達した。政府の政策の下、中国では生産性が他国より速いスピードで上がったのだ。

だが輸出シェアと経常黒字の拡大は諸外国の不安をかき立て、中国政府はこれに対応した。まずアメリカの圧力に応えて、人民元の対ドル高を容認した。人民元は2010年から10年で50%ほど上昇し、経常黒字は06年にGDP比10%でピークに達したのち、18年には実質ゼロまで縮小した。

第2に政府は世界金融危機の際に景気刺激策を打ち出し、不動産・インフラ分野に資金を投入。公共支出の変化により生産の構成は貿易財から非貿易財に傾いた。第3に習近平(シー・チンピン)政権下で中国は内向きに転じ、外国との競争を抑えるために「ローカリゼーション」と「国内大循環」を重視した。

さらにアメリカはトランプ前大統領の下で対中関税を引き上げ、次のバイデン政権はこの戦略をより強硬に推し進めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア国連大使、NATOに「直接戦争」警告 長距離

ビジネス

米ボーイング、16年ぶりスト突入 737MAX生産

ワールド

ハマス最高指導者、ヒズボラのトップに書簡 イスラエ

ワールド

ウクライナ捕虜49人帰還へ、ロシアと56回目の身柄
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 5
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 6
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 7
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ロック界のカリスマ、フランク・ザッパの娘が語る「…
  • 10
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 5
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 9
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 10
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中