最新記事
中国経済

成長と変革、中国経済の「二兎追い」に矛盾 くすぶる疑念

2024年3月7日(木)10時39分
ロイター

3月6日、中国の李強首相(写真)の国のビジョンは矛盾をはらんでいる。経済モデルの「変革」するという目標は、成長率を5%前後に安定させることと相容れないだろう。北京の人民大会堂で5日撮影(2024年 ロイター/Florence Lo)

中国の李強首相の国のビジョンは矛盾をはらんでいる。経済モデルの「変革」するという目標は、成長率を5%前後に安定させることと相容れないだろう。

李強首相は5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)で初の政府活動報告を行い、国内消費を拡大する一方、工業生産能力の過剰や地方政府の債務リスクを抑制し、不動産部門では「正当な」プロジェクトだけを支援すると約束した。

 

負債による投資への依存、極端に低い家計支出など、深刻な構造的不均衡の是正を求めてきた人々にとって、こうした約束のひとつひとつは心地よく聞こえるだろう。

だが製造業投資、不動産偏重、インフラプロジェクト関連の地方の債務は、これまで中国経済発展の重要な柱だった。これを抑制することは、短期的には成長率の低下も受け入れることを意味するとアナリストは指摘する。

ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「矛盾がある。経済をどのように変えていくのか説明していない」と述べた。

中国が構造改革に取り組むのはこれが初めてではない。2013年、習近平国家主席は自由市場と消費主導の成長の長期的ビジョンに関する60項目の政策項目(アジェンダ)で大胆な経済・社会改革計画を発表した。市場はこれを歓迎した。

しかしそれ以降、中国がやってきたことは資本勘定と市場監督の強化、国家主導の投資拡大だ。

今回の李首相の政府活動報告に市場は反応薄だった。投資家と消費者は改革の号令に懐疑的になっており、中国に対する国内および海外の「信頼の危機」が一段と深刻化する恐れがある。

メルカトル中国研究所(MERICS)のチーフエコノミスト、マックス・ゼングレイン氏は、政府活動報告の影響について「家計と企業の心理は弱いままだろう」とし「社会は習近平指導部が示す道筋をなかなか納得できない。『約束疲れ』のようなものが生じているとみられる」と指摘した。

李首相は活動報告で安定を強調したが、2013年の計画の多くは安定に反するものだった。15年に中国は資本流出の恐怖を経験し、市場の破壊的威力を思い知った。17年には、都市と農村で戸籍を厳格に分ける毛沢東時代の制度を緩和する計画が挫折した。大都市は、社会の安定を理由に「低層の人々」の流入阻止に動いている。

消費・市場主導の成長への転換が頓挫し、急減速の脅威が迫るなか、当局は成長目標を達成するために不動産市場とインフラ支出に傾注した。

しかし21年に不動産バブルが弾けると、土地開発による地方政府の収入は激減し、多くの都市で債務水準が維持できなくなった。

負債を抱えた地方政府は財政を安定させるため公務員給与を削減したり、中小企業への罰金を引き上げたりした。これは消費拡大という目的に逆行するもので、成長のギアチェンジの難しさを浮き彫りにする。

歳入が減少しているときに家計の所得増加を促進するには、地方経済の他の部分、特に裕福な国有企業とその請負業者から資金を得る必要がある。「家計に資源を再配分するということは、既得権益から資金を移すということだ」とトリヴィウム・チャイナの経済アナリスト、ジョー・パイセル氏は指摘した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中