「横暴な区長」を謝罪に追い込んだ「生活保護」シングルマザーたち...英国で実際に起きた事件を知っていますか?
──たしかに、冒頭のシングルマザーのスピーチで貧困層の思いをぶつけられた直後、裕福そうな日本人記者・史奈子の視点に切り替わる流れが絶妙でした。史奈子が運動を冷ややかに見つめているからこそ、話に入りやすかったように思います。
日本で運動をすると、「変なことをやっている人」「面倒くさい人」というふうに偏見の目で見られがちですよね。公営住宅の空き家を占拠するというこの運動が、単なる不法行為を行っている、われわれとは考え方が違う国の人々の話と捉えられてしまったら、何も共感してもらえず、ヒントを得てもらうこともできないと思ったんです。だから、日本人の目線で道案内をしてくれるキャラクターを出すことにしました。
日本人は人権について教わっていない?
──本の中では、運動のつらい部分についても書かれていますよね。差別を受けたり、自己責任論にさらされたり。日本でも若い世代が似たような発言をしていて衝撃を受けたことがあります。「ホームレスになったのは自己責任だ」「どうして働かない人を税金で養わないといけないんだ」など。
日本でそういうことを言ってしまう人がいるのは、教育の影響も大きいかもしれないですね。この本でも史奈子が疑問に思っていますよね。貧しい人でも借りられてそこで生活できるような家賃を設定することは本当に政府の仕事なんだろうか、手頃な住宅を供給される権利なんて私たちにあるんだろうか、お金持ってる人が高い家賃を払っていい場所に住むのは当たり前のことで、お金のない人は出ていくべきなんじゃないかって。これは居住の権利を知らないということです。
私の世代は教わっていないんですけど、居住の権利というものが国際条約で認められています。日本でも憲法で「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が保障されていますよね。社会権規約委員会は、住居が適切な権利と言える条件として、「取得可能性」を挙げています。これは、家賃が手頃であることや、法外な値上げは許されないといったことが含まれています。こういうことって、うちの息子は中学校で習ったらしいんですよ。イギリスは、基本的人権とはどういうもので、私たちは国に何を保障させるべきなのかを学校で教えたうえで、「さあ、国がそれを保障していないと思うならかかってこい」みたいなところがある。
生活保護をもらっている人に対して、「自分が悪いんじゃないか」とか、「税金の世話になるべきじゃない」という人もいますけど、国は生存権を保障する義務があるからそうしているわけですよ。それが嫌なら国連を脱退しろって話になっちゃうわけで。