「横暴な区長」を謝罪に追い込んだ「生活保護」シングルマザーたち...英国で実際に起きた事件を知っていますか?
──たしかに、人権について理解していたら出てこない発言ですね。
『THIS IS JAPAN : 英国保育士が見た日本』(新潮社)という本を書いたときに、自立生活サポートセンター・もやいさんという貧困支援団体でボランティアをさせていただいたことがあるんです。ボランティアの最初の説明会があって、説明の後に質問を受け付けるという場面で、後ろの方に座っていた大学生くらいの女の子が立ち上がって「さっきから人権、人権って言われていますけど、人権って一体何ですか?」って言ったんですよ。彼女はきっと、人権について教わったことがなかった。だから、どういう人権があって生活保護につながるのか、貧困者にどういう人権があるのかがわかっていなかったんです。
イギリスで大学生が「 “human rights” って何ですか?」と言うことは想像しづらいですね。よく知らない、教わっていないということの影響は大きいのでしょうね。
──イギリスでは意識の違いを感じられますか?
イギリス人がみんな同じというわけではないので、いろんな考えの人がいるということが前提にはなりますが、生活保護バッシングやシングルマザーバッシングがひどい時代はありました。でも、私は最近不思議に思っているんですけど、去年から今年にかけてのイギリスの雰囲気がちょっと違うんですよ。
生活保護をもらっている人を「ずるして生きている」と言ってバッシングしだすときはたいてい、みんな生活が苦しくて、何かはけ口が欲しくて、下の者がさらに下の者を叩くという構図が多いと言いますよね。だから、弱者にやさしい時代は、経済的にみんな余裕がある時代だと思われてきました。でも最近のイギリスは、みんなめちゃくちゃ生活が苦しくなっているからこそ、助け合うというような機運が生まれている気がするんです。だから、生活保護バッシングは最近あまり聞かなくなっています。この気運はどこから来てるのかなと私も今考えているところです。
■この記事の続きを読む:「理解できない人」を侮辱しない...「泣き寝入り」しない人たちを批判するのではなく、リスペクトを
『リスペクト──R・E・S・P・E・C・T』
著者:ブレイディみかこ
出版社:筑摩書房
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ブレイディみかこ(ぶれいでぃ みかこ)
ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。2018年、同作で第二回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補。2019年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第二回Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞、第七回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)受賞。著書は他に、『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(ちくま文庫)他多数。
flier編集部
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