2、3冊の同時並行読みを15分──「5つの読書術」を半年続けることで表れる変化とは?
(5)同時並行読み──すきま時間で読む
万人に向くわけではないが、本は、何冊か同時に読み進めることも試してほしい。先ほど述べた、資料としての超速読ばかりではなく、カバー・トゥ・カバーでじっくり読む古典についても、同じだ。
一冊を読み終えるまで別の本を読めない、読まない人が、かなりの数いる。小説でいえば「あらすじがごっちゃになってしまう」ということがある。あるいは、集中して読み切ったほうが速い、たくさん読める、という人もいるだろう。
同時並行読みをすすめる理由は、速読のためというのもあるが、多ジャンルの本をまんべんなく読むため、という意味が強い。のちに書くが、①海外文学②日本文学③社会科学か自然科学、それに④詩集の四ジャンルくらいは、偏ることなく読んでいきたい、とわたしは考えている。
わたしの場合、ある本を15分読むと、ほかの本に移る。15分にあわせたキッチンタイマーを、書斎やリビング、食卓、風呂場にさえ用意してある。仕事の合間、リビングでコーヒーを飲むとき、食事をするとき、いずれも15分単位で本を読む。そしてそれは、全部違う本だ。
なぜ15分かというと、それより短くすると、小説でも社会科学、自然科学の本でも、意味のかたまりがとりにくくなる。また15分を超えると、こんどはインプットの時間をとるのが億劫になる。
読書は最低1時間続けたい。落ち着いて。お気に入りの喫茶店で──。そういう気持ちは、よく分かる。
しかし、そういう特別な1時間が空くまで読書をしないのならば、少なくともわたしにとっては、週に1回時間をとるのも、難しいかもしれない。猟師も百姓も、長時間労働なのだ。だからこそ、15分である。
仕事でひと息ついたとき。風呂。起きた直後。寝る前。15分のすきま時間ならば、工夫次第で、1日に数回はとれるだろう。どうせ細切れ時間になって集中が途切れてしまうのならば、いっそ違う本に。本のローテーション制、という発想だ。
ためしに2、3冊程度の同時並行読みを半年ほど続けてみてほしい。「速くなった」と実感できる人は、そのまま習慣に。「自分にはどうにも向かない」と確認できた人は、一冊読み切り読書でかまわない。ただし、多ジャンルの本を読むのは心がけたい。
伝説の速読家、芥川龍之介
ところで、速読が得意だった人は、だれだろうか。現代日本の作家では、司馬遼太郎、井上ひさし、大江健三郎、この三人が御三家であったといわれている。
もっと昔、伝説の速読家に、芥川龍之介がいる。食事中に書物を手放さないのはあたりまえ。来客中も本を片手に談笑しつつ、下を向いてページを繰っている。客は「ああ、またやってるな」と思ったそうだ。
英語も速読できた。「普通の英文学書ならば一日千二、三百ページは楽に読んだ」というのだから、にわかに信じられないほどの速読家だ。