最新記事

世界経済

パンからポテチ、化粧品にまで使われる植物油が全面禁輸!? ウクライナ戦争の余波が影響

2022年5月16日(月)17時55分
大塚智彦

インドネシアでは今年2月以降、パーム油の価格が値上がりし、抗議デモも起きる事態となり、政府はさらなる価格高騰、品薄による国民の不満が高まることへの警戒感があったと見られている。

ジョコ・ウィドド大統領は「世界最大のパーム油の生産国であるインドネシアが食料油の入手に苦労しているのは皮肉だ」と述べ、アイルランガ・ハルタルト経済担当調整相も「国民を優先するという政府の献身的な姿勢の表れであり、禁輸政策に違反する企業は取り締まる」と述べ、政府一丸となって禁輸支持と禁輸措置厳守の方針を示している。

インドネシアは流通機構の整備の遅れから特に冷凍・冷蔵での食品流通が難しい面がいまだに残り、結果として大半の肉製品や魚介類は生食ではなくパーム油で揚げて料理するというのが一般的となっている。このため断食明けの大型連休で帰省する多くの国民の家庭でパーム油は必要不可欠となっているのだ。

そのパーム油も現在1リットル1万7000ルピア(約1500円)まで上昇しており、政府は「平均価格が1万4000ルピア(約1240円)に下がれば禁輸は解除する」と説明しているが、現在もパーム油の価格は上昇傾向にあり、品薄感も広がっていることから禁輸解除の目途は全く立っていないのが現状だ。

全てのパーム油品種を禁輸に

インドネシア政府が打ち出した禁輸は主に食用油として流通するパーム原油、精製パーム、パーム・オレインで、それ以外にもパーム油は化粧品や石鹸、シャンプーなどにも使われている。このため日本などは食用に供さなないパーム油の禁輸解除を求めているが、インドネシア政府はこれまで前向きには応じていないという。

インドネシアからパーム油を輸出しているのは日本のほかタイ、中国、シンガポール、ポーランド、パキスタンなどで、これらも日本同様にインドネシア政府への禁輸解除、一部解除を求め続けているという。

マレーシアがパーム油輸出増産へ

こうした状況のなか、パーム油の生産高世界第2位のマレーシアが動き出した。5月10日にマレーシア政府は2022年末までに現在のパーム油輸出を30%増産する計画を明らかにしたのだ。

これは住宅・地方政府・農園担当のズライダ・カマルディン大臣が明らかにしたもので、インドネシアのパーム油禁輸を受けた国際市場の需要の高まりに応えるためでもあるとしている。マレーシアはインドネシアの禁輸措置を受ける前の今年2月に増産に向けて海外からの労働者3万人の増員計画を進めており、こうした労働者の補強で輸出増産も可能であるとしている。

マレーシアとしては今回のインドネシア禁輸を機に国際市場でのシェア拡大と増産による国内のパーム油産業の振興も目論んでいるとみられており、今後のインドネシア側の出方が注目される事態となっている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、IMFナンバー2に財務省のカッツ首席補佐官を推

ビジネス

ミランFRB理事の反対票、注目集めるもFOMC結果

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

前場の日経平均は反発、最高値を更新 FOMC無難通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中