「アベノミクスは買い」だったのか その功罪を識者はこうみる
◎斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査部長
もともとアベノミクスは何も達成していない。ただ、アベノミクス以前の、物価が継続的に下落する状態には戻らないとみている。消費者物価はマイナス圏に沈む時期はあるだろうが、何年も下落が続くとはみていない。物価が上がる状態を何年か経済主体が経験したので、デフレマインドがある程度払拭された。
潜在成長率が上がれば成長率を押し上げることができる、との論調があるがそうは思わない。実際の成長率が上がれば、潜在成長率も上がる。アベノミクスの途中までは実際の成長率が上がったので、潜在成長率も0%台半ばから1%位まで上がった。その後低迷したのも、実際の成長率が鈍化したからにすぎない。
◎岩下真理・大和証券チーフマーケットエコノミスト
アベノミクスがなくても人口動態から人手不足だった。雇用改善はアベノミクスが生み出したアドバンテージではない。企業の内部留保が積み上がったことは、確かに今回の危機で企業にとっては耐久力が上がる要素となった。何度も危機を乗り越えた経験上、日本企業は保守的で、労働分配が進まなかった。これは日本の特質のひとつ。それはまさに黒田東彦日銀総裁がいつも言っている「デフレマインド」だろう。
米株に比べて日本株があまり上がらない背景として、新しいビジネス展開が苦手な日本企業の体質がある。たとえばアベノミクスの裏の失敗はデジタル化の遅れ。これは今回の危機で明らかになった点だ。日本経済がコロナ前の水準に戻るのは最短で2年、もたつけば4年かかるだろう。
◎新家義貴・第一生命経済研究所主席エコノミスト
アベノミクスの3本目の矢が、潜在成長率を上げる上で重要だった。何もやっていないわけではないが、期待したほど改革は進まなかった。インバウンドは数少ない成功例だが、労働市場改革や規制緩和はあまり進まなかった。
アベノミクスの戦術のひとつが、企業・家計の成長期待を高め、マインドを転換させることだった。実際企業収益は伸びたが、期待成長率をしっかり押し上げるほどではなかった。今後の対応としては、財政は当面資金繰り支援・雇用維持に注力し、金融政策はそれを側面支援することに尽きる。
(経済政策取材チーム 編集:久保信博)
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