東京五輪「コロナ延期で莫大な経済損失」は本当なのか
OLYMPIC DREAM STILL ALIVE
そしてもう1つ重要な視点は、これらの設備はオリンピックが予定どおり開催されなかったとしても、直ちに「負の遺産」になるわけではないということだ。例えば、新国立競技場については、旧競技場が1964年の東京五輪終了後も長期にわたり使用され、十分に投下資本を回収できたのと同様、その後の活用が期待される。また選手村は民間住宅としての売却など出口戦略があらかじめ練られている。従って、長い目で見れば、この5000億円を損失として取り扱う必要はない。
次に間接的な建設関連投資について見ていく。先のペーパーに基づき内訳を見ると、高輪ゲートウェイ駅の開発、日本橋・銀座や渋谷・新宿・池袋の再開発といった「再開発案件」が4兆円、首都高の整備など「交通」が2兆円、そして民間ホテル建築など「宿泊」が8000億円などとなっている。
これらのプロジェクトは五輪の経済効果に少なくとも一部関連していることは事実だ。しかしオリンピックがなかったとしても実行に移されていた可能性も高い。従って、仮に大会が中止・延期されたとしても、これらの計画に投じた額を経済損失として認識する必要はないのだ。
開催年がピークという先入観
そして、「そもそも論」ではあるが、オリンピックに伴う建設関連投資の発現時期を考える必要がある。五輪関連プロジェクトは開催に間に合うように計画されるため、通常は開催の2年前頃に景気刺激効果のピークが到来する。新国立競技場をはじめとする各種プロジェクトが竣工していることからも明らかなように、20年3月の段階で既に五輪関連の建設投資がもたらす刺激効果の大部分を日本経済は享受している。
開催年に経済効果がピークに達すると考えている人が多い印象だが、実のところ20年に残されていた部分は思いのほか少ない。実際、政府や日銀、民間の19~20年の経済成長率予想は延期の決定前から五輪の景気刺激効果の減衰を前提としていた。
次に②の観光関連であるが、20年に期待される観光需要はそもそも大きくない。そう聞くと「大勢の観戦客が来なくなるのに損失が出ないはずはない!」との声が聞こえてきそうだが、それは開催期間中における東京の活況という「木」を強く意識するあまり、日本全体という「森」の訪日観光需要を軽視してしまっている。報道などから「オリンピック=訪日客急増」といったイメージを抱く読者も多いと推察するが、過去の開催国データは意外にも大会期間中にその国を訪れる人は増加せず、むしろ減少傾向すらあることを示している。