最新記事

ルポ五輪延期

東京五輪「コロナ延期で莫大な経済損失」は本当なのか

OLYMPIC DREAM STILL ALIVE

2020年4月8日(水)18時40分
藤代宏一(第一生命経済研究所 主任エコノミスト)

新国立競技場建設を含む五輪の経済効果は開催年には多くない CARL COURT/GETTY IMAGES

<多くの人が見誤っている。そもそも「五輪特需」は幻想に過ぎず、建設関連も観光業も「1年延期」の影響は限定的だ――。本誌「ルポ五輪延期」特集より>

期待されていた「五輪特需」はなくなってしまったのだろうか?
20200414issue_cover200.jpg
2020年東京オリンピックは21年7月23日開幕への延期が決定された。当初は開催そのものが危ぶまれ、「中止で日本経済は急減速する」と悲観的な声も聞かれた。少なくとも現時点で中止を免れたことは朗報と言えるが、延期による経済への悪影響を不安視する声も多い。

だが結論を先取りすると、今回の延期決定による20年の日本経済に対するマクロ的インパクトは限定的だ。五輪関連の建設投資が既にピークアウトしているほか、オリンピックイヤーに期待される観光需要がそもそも大きくないと予想されるからだ。

なお、筆者は今回の延期決定、あるいは中止の場合に伴う経済損失について具体的総額を示すこととは距離を置く。人によって「損失」の捉え方が大きく異なるため、計算の前提を少し動かすだけでその試算結果が大きくずれてしまい、有意義な議論が難しくなってしまうからだ。例えば、延期後の21年に向けた施設の維持費増加などは、マクロで見ればそれはある種の経済活動であるから、単純な「損失」ではない。

実際、「オリンピック」「延期・中止」「経済損失」というキーワードで検索すると、6000億~20兆円という幅広い試算結果がヒットする。そうした観点から、本稿では五輪の経済効果がどのような経路を通じて発現するのかを整理した上で、延期に伴う経済的影響を試算する際に盲点となりがちな2つの大きなポイントに絞って検討する。

オリンピックの景気刺激効果としては①建設関連投資、②観光関連という2つの経路がよく挙げられる。延期に伴う経済的影響を議論するに当たっては、この2つの経路をそのまま損失に置き換えるのではなく、以下の視点を踏まえる必要がある。

まず①の建設関連投資には、競技場や選手村といった「直接効果」に加え、開催を契機に開発が進められるその他の建設計画の「間接効果」が含まれている。重要なのは間接効果の規模が圧倒的に大きいことだ。

膨大な「間接」経済効果

例えば、日本銀行が15年に示した分析ペーパーによると建設関連投資の総額はおよそ10兆円で、そのうち競技場などの直接効果は5000億円と示されている。直接効果の内訳は新国立競技場が2000億円弱、その他の選手村などが3000億円だった(実際、完成した新国立競技場の総建設費は1569億円だ)。新国立競技場や選手村は、建設関連投資全体で見た場合、その存在感は多くの人が想像するよりも小さいのではないだろうか。日本経済全体で見れば、それは言うまでもなくさらに小さい。

【参考記事】サニブラウンが明かした「五輪延期」への決意

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中