最新記事

BOOKS

毎年1000社ベンチャーが生まれる「すごい」国イスラエルの秘密

2019年1月31日(木)16時25分
印南敦史(作家、書評家)


 8200部隊の主な任務は、周辺国やテロ組織の固定電話、携帯電話、衛星通信、電子メールなどによるコミュニケーションの盗聴、暗号によって秘話化された通信内容の解読、敵国からのイスラエルへのサイバー攻撃の防御である。盗聴活動は、イスラエル南部・ネゲブ砂漠のウリム通信傍受基地を拠点として行っている。さらに、周辺諸国やテロ組織のITシステムに侵入して、データを盗み出して分析し、国家防衛のために活用する。いわば軍が組織的に行うハッキングである。
 8200部隊には、約5000人の兵士が所属している。これは、予備役を除くイスラエル国防軍の兵力約17万6500人の約3%に相当する。同国がいかにこの部隊を重視しているかが理解できる。(74~75ページより)

米国には国家安全保障局(NSA)という世界最大の電子諜報機関があるが、著者によれば8200部隊はNSAのイスラエル版。しかも注目に値するのは、8200部隊が数々の起業家を生むインキュベーター(孵化器)となっている点である。


8200部隊は狭き門で、誰でも入れるわけではない。軍は入隊前、若者たちがまだ16歳の時から、素質や能力、創造性、適性に関するスクリーニング検査を行う。そして軍は、ITに関する豊富な知識や他の人とは違った発想法など、特殊な才能を持つ若者だけを8200部隊に配置する。短期間に知識を習得する能力も重視される。ここに配属されるのは、「全体の1%からさらに選りすぐられた1%」と呼ばれる。8200部隊は、イスラエル国防軍きっての超エリート部隊なのだ。(77ページより)

だから若者たちも、熱意を持って8200部隊を目指す。新兵たちは、高校を卒業したばかりでも、国防に関する責任の重い任務を与えられることに強い誇りを抱くというのだ。

目に見えないサイバー戦線では、最前線で警戒に当たる兵士の責任は大きい。ミスがきっかけで敵がイスラエルのITシステムに侵入したとしたら、軍の通信系統が妨害されたり、社会へのエネルギー供給が遮断される可能性も否定できない。

その意味で新兵たちの責任は重いが、彼らは時間が過ぎるのを忘れて任務に没頭する。感受性の強い時期に、他所ではできない貴重な経験を積んでいるということである。

イスラエルとそれ以外の国の間には、軍隊に対する見方について大きな違いがあるという。例えば大半のドイツ人は「軍隊は国を守るために必要」と考えているが、しかし軍隊に好意は持たず、「必要悪」と捉えている。ナチスの犯罪に対する反動で、平和主義を尊ぶドイツ人が多いということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中