最新記事

デザイン

店頭での見栄えだけを考えた商品は、価値がない

2015年11月18日(水)16時06分

 どんなプロダクトでもユーザーが利用する際はどこかに運ばれたり、何かを開け閉めするなど、実際の利用シーンに合わせて目的に達するための行為と時間が発生します。いくら置かれた姿が美しくても、この時間軸の流れを無視したものには「美しくない要素」が含まれてしまいます。

「行為のデザイン」では必ずユーザーの時間軸を考えます。なぜその行為に及ぶのか、目的は何か、一つ一つていねいに確認すると、あるべきプロダクトの姿が見えてくるからです。

 特に、医療機器は時間軸で考えなければいけない代表的なプロダクトです。

 医療機器の主なユーザーは医師ではなく看護師です。今はどこも人手不足で、夜勤比率が高まるなど看護師への負担が増えています。そんなヘビーな働き方をしているところへ不慣れな新しい機械がポンと来て、苦しんでいる目の前の患者に使わなければいけなくなったらどうでしょう。

 そのとき「取扱説明書を読めばわかる」というのはメーカーの怠慢です。看護師の行為の流れと目的を考え抜き、プロダクトの形状やUIで連想を生み、正しい使い方が確認できるよう、直感的なデザインをするのが本来のあり方ではないでしょうか。

 また、エラー表示も不親切なものがたくさんあります。「E03」と出たので取扱説明書を探して、ページを繰ると「電池が入っていません」と書いてある。こんな非効率なことはありません。

 いったん暗号に置き換えて説明書で解読させるような流れは明らかに「バグ」です。エンジニアとデザイナーの領域が分かれた結果、誰もエラーに遭遇したユーザーのことを考えないままプロダクトになってしまった悪例です。企業がどれだけユーザーに寄り添っているのかを測る、一つの物差しともなるでしょう。

 万が一、機械が止まってしまっても、その原因がすぐにわかる表示ができればユーザーの行為は止まることなく、スムーズに目的に辿り着けます。エンジニアやデザイナーはそんな事態をも予想してシステム設計し、形に組み込むべきなのです。

 これらの例を考えると、従来のビジュアルを整えるだけの「狭義のデザイン」ではデザイナーの仕事が完遂できないことがわかると思います。「行為のデザイン」はもっとユーザーの行為に注目し、重要なファクターとして扱います。

 これまで述べてきた「バグ」を解消するには、デザインの段階でユーザーの時間軸を考える視点が不可欠です。ただそこにあって飾られるモノではなく、どう使われるのか、何のために使われるのか、モノを取り巻くすべてのインタラクション(作用と影響)まで考えなければいけません。

 ユーザーが間違えやすいスイッチや行動があるなら、形状で解決できるかもしれません。ある機能はピクトグラム(アイコン)を変えるだけで一気に認識しやすくなるかもしれません。究極は、私たちが使っているモノを意識しないくらいバグを取り払い、行為のシームレス感(ひと続き感)、いわば「行為の切れ目のないシームレス感」を生み出すことだと考えています。

※抜粋第3回:「ゴミを捨てないで」が景観を損なってしまうという矛盾 はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中