最新記事

デザイン

店頭での見栄えだけを考えた商品は、価値がない

ユーザーの行為とそれに伴う時間を考慮してデザインしなければ、置かれた姿が美しいだけの商品になる

2015年11月18日(水)16時06分

デザイナーだけの手法ではない 開発者や営業職などデザイナー以外の関係者が持つアイデアも共有し、解決策に結びつけるのが「行為のデザイン」(『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』より)

 乱暴に言えば、かつての日本メーカーは「機能重視、デザイン軽視」だった。その後、アップルなど海外メーカーの製品が日本でも支持を得て、デザインの持つ力を多くの消費者が認識するようになった。しかし、「デザインとは何か?」と問われて答えられる人は、今でも多くないだろう。美しさ、だろうか。

 デザインのことは、デザイナーに任せておけばいい――仕事の現場でそう考えている人は少なくないはずだ。しかし、「デザインというツールは、もはやデザイナーだけのものではない」と、デザイナーであり、京都造形芸術大学大学院でSDI(ソーシャルデザイン・インスティチュート)の所長を務める村田智明氏は言う。

 村田氏は、人の行動に着目し、改善点を見つけてより良く、美しくしていくための手法として「行為のデザイン」を提唱している。どういうことかと言うと、例えば会議室のような広い部屋に必要なのは、美しいスイッチ盤ではなく、暗闇で照明をつけようとしたときに、どのスイッチが天井のどの照明と対応しているか迷わなくて済むようなスイッチ盤だ。あるいは、ショッピングセンターや駅の構内に必要なのは、「上に上がろう」と思って近づいたら「下り」だったという失敗をしないで済むような、遠目でもどちらの方向に動いているかがわかる視認性が高いエスカレーターだ。

 大切なのは、ユーザーがスムーズに目的の行為を進められるようにすること。そして開発者や技術職、営業職など、デザイナー以外の関係者がもつ課題やアイデアを共有し、デザインに取り込む仕組みだ。村田氏は、それらを達成する新しいデザインマネジメントの手法を『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』(CCCメディアハウス)で余すところなく解説。パナソニックや富士通、コクヨファニチャーなど多くの企業が導入し、実績を挙げたワークショップの開き方まで伝授している。

 ここでは、本書の「第1章 行為のデザインは、開発力を加速させる」から一部を抜粋し、前後半に分けて掲載する。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』
 村田智明 著
 CCCメディアハウス

※抜粋第1回:不都合や不便を感じるデザインでは、もう生き残れない はこちら

◇ ◇ ◇

足りないのは時間軸でたどる視点

 止まっていようと動いていようと、行為には必ず時間がともないます。「行為は時間」だと思ってもよいほどです。

 行為のその先には目的があり、目的を果たすために私たちはさまざまな手段を講じています。「言われたことを忘れない」という目的があれば、スマホのスケジュールに書き込む、あるいは手帳にペンで書き込むなど異なった手段が存在し、どちらも目的を達成することができます。その際にユーザーは何かにつまずいたり迷ったり、達成して喜んだりします。

 もし混乱して振り出しに戻るようでは、その行為は美しくありません。また、行為の停止があると目的を果たせず、ユーザーにとっては時間の浪費です。できるだけ避けたい事態なのです。プロダクトやUIをデザインする場合、そんなユーザーの時間軸を考慮してデザインに組み込む必要があります。

 私たちはモノを買うとき、棚に置かれている状態だけで良し悪しを判断することが多いかと思います。

 たとえばお店で見つけたソファが格好よくて買ったけれど、自分の部屋に置いたら全然合わなかったという経験はありませんか。それはプロにライティングされ、コーディネートされた空間の中で、止まっていたプロダクトを見て判断したからです。その瞬間は美しく価値がありましたが、自分が実際に生活する場ではマッチせず、価値が発揮されなかったといえます。これはモノを止まっている姿・瞬間だけで捉えた結果です。自分の普段の行為の中でモノを動かしてみる、つまりシミュレーションしてみる想像力があれば、防げるはずのものです。

 実は、私たちはプロダクトを開発するときも同じ失敗をしています。つい、使っていない状態の造形美や、店頭で並んだときの見栄えや他社商品との差異を気にしていないでしょうか。本当はユーザーが手段としてプロダクトを利用するときの反応こそ重要なはずなのに、それは次候補になっているのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベゾス氏、製造業・航空宇宙向けAI開発新興企業の共

ワールド

米FEMA局長代行が退任、在職わずか6カ月 災害対

ビジネス

米国株式市場=大幅安、雇用統計・エヌビディア決算を

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロ・円で上昇、経済指標の発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中