最新記事

経営

値上げが中小企業を幸せにする4つの理由(前編)

消費税10%引き上げを機に考えたい、価格を上げて「粗利」を増やし、業績回復を成し遂げる方法

2015年10月20日(火)16時37分

波及効果 値上げで増えた売上総利益(粗利)を給料に振り向けると、従業員のモチベーションが上がる(写真は本文と関係ありません) davidf-iStockphoto.com

 2017年4月に消費税率が10%に引き上げられるが、その際の軽減税率導入をめぐって激しい議論が交わされている。軽減税率がどう決着するにせよ、消費増税は刻一刻と迫る。だが、それで世の中が自動的にインフレに転じるとは限らないし、モノの値段が勝手に上がるわけでもない。

 商品やサービスを売るビジネスの現場では、そう単純な話ではない。「個々の会社や店が意志を持って値段を上げ、それをお客さんに受け入れてもらうことが必要」だと、多くの中小・中堅企業を調査してきた経営コンサルタントの辻井啓作氏は言う。

 辻井氏は著書『小さな会社・お店のための 値上げの技術』(CCCメディアハウス)で、デフレ・インフレに関係なく、経営者も従業員も取引先も顧客も幸せにできる手段として、値上げの必要性を説く。「1割の値上げができれば営業利益は2倍になる」「値段のしくみを知り、条件を整え、勇気を持って値上げせよ」と辻井氏。

 ここでは、本書の「第1章 どうして値上げが必要か」から「値上げが中小企業を幸せにする四つの理由」の項を抜粋し、前後半に分けて掲載する。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『小さな会社・お店のための 値上げの技術』
 辻井啓作 著
 CCCメディアハウス

◇ ◇ ◇

1.中小企業で働く人の幸せの源泉は「粗利」にある

 先ほど、売り上げから仕入れと経費を差し引いた営業利益について説明しました。営業利益は会社の力を示す、といわれるくらい大切なものです。しかし、営業利益が上がることで幸せになるのは社長だけ、そこで働く社員はあまり幸せにならない、という場合が少なくありません。

 値上げをしなくても、経費を引き下げれば営業利益を上げることはできます。つまり社員やパート・アルバイトの給料を下げれば、営業利益を上げることができるのです。会社が経費の削減をするのはそのためです。

 もちろん、経費を無理に増やす必要はありません。油断すると会社の中に無駄が生まれ、経費がかさみますから、常に意識して経費を抑える必要があるのは確かです。しかしそれでも、店や会社のために一生懸命働いてくれている社員やパート・アルバイトの給料を下げてまで利益を上げるのは、少し違うのではないでしょうか。

 私は、営業利益が高いだけの会社は、尊敬できないと考えています。むしろ社長は、会社を潰さない範囲で、可能な限り給料を支払うべきだと考えています。無限に給料を上げていくことはできませんが、最低限、同業他社よりは高い給料を払うことを目指すべきでしょう。「ウチの社員は能力が低い」とか「仕事に身が入っていない」と言ってよいのは、同業他社以上に給料を支払っている社長だけなのです。

 少し話が回り道になりましたが、値上げと給料の関係は重要です。値上げがうまくできれば、社長は社員やパート・アルバイトの給料を上げることができるのです。

 先ほどの例で見たように、値上げをすれば、売り上げが増えても増えなくても売上総利益(粗利)が増えます。給料を含めた経費は粗利の中から支払いますから、値上げにより増えた粗利を給料に振り向けることができるようになるのです。

 給料が増えると良いことがたくさんあります。一般には、給料が増えると社員やパート・アルバイトがやる気を出し、会社の業績を上げてくれます。また、それまでは簡単に辞めていた人が辞めにくくなります。同業他社ではもらえない給料をもらっているのですから当たり前です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米は依然最大の同盟国、EU外相が強調 トランプ政権

ビジネス

7─9月GDP2次速報、年率2.3%に下方修正 設

ビジネス

インド成長率、今年度は7%以上に 基礎的要因強く=

ビジネス

10月経常収支は2兆8335億円の黒字=財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中