レアアース禁輸拡大で墓穴掘った中国
日本だけでなく欧米にまで禁輸措置を拡大した仰天行動の背景にある中国の未熟な論理
自衛措置 レアアースの回収を待つ中古のCPU(東京・千代田区のリーテム社、10月15日) Toru Hanai-Reuters
ニューヨーク・タイムズ紙は19日、中国が日本だけでなく欧米までレアアース(希土類)の禁輸を拡大したと伝えた。
この中国の行動により......すでに高まりつつある貿易および為替問題での欧米との緊張はさらに高まることになりそうだ。(中略)レアアースの供給停止措置は、中国政府および指導部が、強まりつつある中国の経済的影響力を利用しようという意志の表れだ。
業界関係者によれば、中国の税関当局は月曜日の朝から、従来よりも広範な規制を課すようになったという。
中国が貿易に関する姿勢を硬化させたのは、米通商当局が15日、環境関連技術に関する中国の輸出補助金や輸入制限が世界貿易機関(WTO)の規則に違反していないかどうか調べると発表してからだ。
この記事が正確だという前提で話を進めると、中国政府の行動を説明するには3つの仮説が考えられる。
まず1つ目は、これはあくまで中国の内政に起因する問題だという仮説。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、欧米へのレアアース禁輸が決まったのは中国共産党の第17期中央委員会第5回総会(5中全会)の後だったという。
人民元の切り上げを迫る欧米との緊張が激化し、またアメリカがWTO提訴に向けて動き出す中、一部のナショナリスティックな反発を抑える必要があったのかもしれない。もちろん、中国の国内政治の実情がどんなものか本当にわかっている人間などいないから、この説の信憑性は誰にも分からない。
中国指導部が私の著書を読んだ?
2つ目の仮説は、私の著書『制裁のパラドックス』を中国指導部が読んだ、というもの。この本の中で私は、制裁を課した国と課された国の間で将来さらに対立が強まる可能性が高い場合、両国は互いに経済的な圧力を掛け合うものの、結局は最低限の譲歩しか引き出せないと書いた。
今のところ、この理論は現実にうまく当てはまっている。レアアースの対日輸出を制限した中国が得たものは、漁船の船長の解放だけだった。たぶん中国側は、レアアース禁輸の拡大によりアメリカ政府がWTOへの提訴をあきらめると期待しているのだろう。禁輸拡大という今回の措置から期待できる成果なんてその程度のものだ。
3つ目の仮説は、経済的影響力をいかに行使すべきかについて、中国は愚かしいほど近視眼的な考え方をしているというものだ。清華大学(北京)のパトリック・チョバネク准教授はこう書いている。
(中国は)自ら墓穴を掘っているようなものだ。比較的ささいな事件で力を誇示しようとするあまり、貿易相手国を驚かせ、たぶん遠くへ追いやってしまったのだ。
(中略)ひとえに為替レートのおかげとはいえ、世界で最も安上がりにレアアースを採掘できるのが中国であることに間違いはない。
だが今や、中国の貿易相手国は深刻に悩んでいるに違いない。(さまざまなリスクやそれに伴うコストを含め)いったい中国はどこまで値を吊り上げるつもりなのだろうと。
「中国外し」が始まる恐れも
一次産品をめぐる対外政策を見ていると、中国政府は資源を物理的に支配することだけを重視し、市場の力を甘く見ているのではと思えてしまう。一次産品市場をそんな短絡的な視点から考えるなんてあまりにばかげているし、各国からも容赦ない対抗策が出てくるだろう。
レアアースの生産拡大に向けて補助金をつぎ込んでいる国はいくつもあり、今後5年間で中国以外の国々からのレアアース生産量は急増するだろう。熱烈な自由市場主義者であっても、そうした各国の対応に異論は唱えないはずだ。