最新記事

ウランいらず「トリウム原発」の可能性

エネルギー新時代

液化石炭からトリウム原発まで「ポスト原発」の世界を変える技術

2011.08.03

ニューストピックス

ウランいらず「トリウム原発」の可能性

原子炉の燃料として使えるトリウムは、プルトニウムを焼却しながらエネルギーを生産する。効率的に発電できて核拡散にもつながらない「夢の燃料」は次世代型原発の切り札になるか

2011年8月3日(水)10時40分
トーマス・グレアム(元米上級外交官)、マイケル・ハワード(英保守党前党首)

突破口を探せ ロシアの研究所ではトリウム燃料の原子炉への応用を実験している Courtesy Thorium Power Ltd.

 現在、世界のあらゆる原子炉では、ウラン燃料の核分裂の副産物としてもれなくプルトニウムが生成される。目下、数十基の原子炉が(大半は途上国で)建設中であることを思えば、核兵器の重要な構成要素であるプルトニウムがイランや北朝鮮、そしてアルカイダのようなテロ組織の手に渡るのを防ぐことは緊急課題だ。

 こうした事態は回避できたはずだった。アメリカ初の商業用原子炉で使われたのは、軍事転用可能な物質を生成しない「トリウム燃料」だったのだから。しかし冷戦中の50年代後半には、ウラン燃料への移行がある意味で理にかなっていた。当時は旧ソ連に対抗して保有核兵器を増強するため、プルトニウムの生産が望まれていた。

 そして今、世界にはプルトニウムがあふれている。日々新たなプルトニウムを生み出す原子炉は頭の痛い問題になっている。

既存の原子炉にも比較的容易に応用

 北朝鮮は同様のプロセスを使って、核兵器を製造できるだけのプルトニウムを生成した。野放しにすれば、事態はますます悪化する。原子力発電は火力発電に代わるクリーンな選択肢になり得るが、軍事転用が困難な燃料だけを使うよう訴えていかなければ、核拡散のリスクは残る。

 今後の対策として最も有望なのは、50年前に「選択しなかった道」へ立ち返ることだ。トリウムはウランよりはるかに豊富で、元素そのものは兵器の製造に使えない。ここ数十年で科学・技術面の研究もかなり進んだ。トリウムを利用する技術の多くはプルトニウムと濃縮ウランを消費するため、貯蔵されている軍事転用可能な物質を大量処分する助けにもなる。

 アメリカとロシアは2000年、大陸間弾道ミサイルの大幅な解体と、その結果生じるプルトニウムをそれぞれ34トン処分することに合意。今のところ、兵器の解体はプルトニウムの処分を大きく上回るペースで進んでいる。この問題を解決しようと、モスクワのクルチャトフ研究所をはじめロシアの研究機関は、アメリカのトリウム技術を国内の原子炉に応用しようとしている。

 本格的に稼働すれば、プルトニウムを焼却処分しながらエネルギーを生産できるようになる。この技術は次世代型原子炉だけでなく、既存の原子炉の大多数にも比較的容易に応用できるという。

 もちろん、技術的な解決策だけで核拡散の脅威を消し去ることはできない。問題に歯止めをかけるには全当事者が真剣に、政治的かつ外交的な議論を行う必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中