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中東革命の軌跡
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中東を覆う「革命疲れ」
騒乱で「体制変革」への期待が一気に高まったが独裁政権はしぶとく生き残る
「革命は独裁の重荷を軽くしない。別な肩に重荷をかけるだけだ」と言ったのはイギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショー。アラブ世界の民衆蜂起に期待を抱いた人たちも、今は同様の感想を持ちつつあるようだ。
外交ジャーナリストのトーマス・フリードマンが言うように、「部族や宗派に分断された社会」に革命が波及すると、「民主化の声と部族や宗派エゴの区別が判然としなくなる」。
エジプトではホスニ・ムバラク大統領の退陣でタハリール広場を包んだ歓喜に代わって、冷めた見方が広がっている。国民投票で憲法改正が承認された背景には「危機の終息と治安の回復で景気が上向くこと」を望む国民感情があると、ある現地メディアは分析している。
中東専門の歴史学者バーナード・ルイスも、「タハリール広場の抗議デモの中心となったリベラルな若者は脇へ押しやられ、軍部とムスリム同胞団が主導権を握りつつある」とみる。
腰が引けたオバマ政権
ブッシュ政権時代の「体制変革」はイラク戦争で泥にまみれたが、今年の中東における民衆蜂起で息を吹き返したかに見えた。しかし現実は厳しい。次なる体制変革はどこで起きるのか。
リビアはどうか。バラク・オバマ米大統領にまともな対リビア戦略があるかどうかは、今は問うまい。しかし一度はムアマル・カダフィ大佐に「退陣」を突き付けたオバマが、今になって米軍の介入は人道危機の回避という限定的な役割にとどめると言いだしたのは事実だ。
シリアはどうか。この国でもリビアと同様の人道的な危機が懸念されるが、リビアと同様の制裁措置が取られることはなさそうだ。米軍が予防的な介入をする可能性もないとみていい。イスラエルの軍事アナリストが言うように、バシャル・アサド政権が倒れたら「それよりずっと始末に終えない」政権が誕生しかねないからだ。
バーレーンは? この国の混乱をきっかけに、長年くすぶっていたイランとサウジアラビアのライバル意識がむき出しになり、戦争に発展する可能性も取り沙汰されている。
イエメンは? アメリカはアリ・アブドラ・サレハ大統領を「退陣させる方向にシフト」したと伝えられるが、腰は引けている。米国防長官のロバート・ゲーツも「状況の不安定化を懸念」しているだけだ。
どの国にもそれぞれ複雑な事情があるだろうが、共通して言えるのは、独裁に代わる新体制の姿が見えないことだ。
健全な懐疑主義が必要
運よく何らかの変化が起きたとしても、その変化の性質と継続性には疑問符が付く。独裁者は意外なほどに粘り強い。暴力的な弾圧で生き延びる政権もあれば、反政府派の組織的な脆弱さや内部対立に付け込んだり、国際社会に黙認されて生き延びる政権もあるだろう。現状のほうが「まだまし」という理由で延命させられる場合もある。
今の中東を見回してみよう。エジプトではまだ新体制の青写真が見えてこない。国内の反政府派の動きを早々と封じ込めたイランは、周辺国の騒乱にほくそ笑んでいるようだ。バーレーンはサウジアラビアの支援で抗議デモの抑え込みに成功。シリアでは抗議デモが続くが、アサドは簡単に退陣しそうにない。カダフィの退陣も、まだ秒読み段階とは言えない。
「古い中東」は今も健在だ。民主化要求に揺さぶられた独裁政権は、再び体勢を立て直し、限定的な改革を行い、生き延びようとしている。
抗議デモが収まり、以前の状態に戻れば失望が広がるだろう。とはいえ、絶望することはない。得てして革命よりも、ささやかな漸進的改革のほうが、長い目で見れば有効だからだ。
中東もいずれは変わる。しかし、それには何年も、いや何十年もかかるだろう。テレビのニュース向きの興奮渦巻く革命を通じてではない。
冒頭のショーの警句は保守的な皮肉屋の懐疑主義に聞こえるかもしれない。しかし3カ月も民衆蜂起の熱狂に酔った今は、健全な懐疑主義で酔いをさますのもよさそうだ。
[2011年4月20日号掲載]