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痛いほどリアルな「愛の終わり」
『ブルーバレンタイン』が描く、息が詰まるほどリアルな男女の心の変遷
黄金ペア ディーン役のゴスリング〔左)とシンディーを演じるウィリアムズは夫婦の愛と苦悩を見事に表現した ©2010 HAMILTON FILM PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
映画『ブルーバレンタイン』は中盤、悲しいくらい残酷な場面の転換がある。それまで映画は、ディーン(ライアン・ゴスリング)とシンディー(ミシェル・ウィリアムズ)の結婚するまでを描く(日本公開は4月23日)。
ディーンは優しいけれど、大学を中退して引っ越し業をしながら気ままな生活を送る男。シンディーはもっと現実的で野心もあり(医者を目指している)、過去の苦い経験から異性関係には奥手なタイプだ。
あるデートの夜、ブルックリンをぶらついていた2人は、閉店した洋品店の前で立ち止まる。店から漏れてくる明かりで、ディーンが小さなギターをかき鳴らして歌いだすと、シンディーがぎこちなくタップダンスを踊ってみせる。さりげないシーンだが、見ているほうまでロマンチックな気分でいっぱいになる。
そこで場面は現在に切り替わる。結婚したディーンとシンディーは倦怠期を迎えている。2人は関係を修復しようと、娘を両親に預けてラブホテルに行く。体重が増えて額が後退したディーンは、気乗りしない妻を何とかベッドに誘おうとする。
だがシンディーは、酒浸りで現状に満足していてこれっぽっちも野心のない夫にうんざりしていた。あのロマンチックな夜とのコントラストに、観客の胸はきりきり痛んでくる。
観客は我慢の限界を試される
愛が終わるのはつらい。そのつらさを観客にも感じてもらいたいというのが、デレク・シアンフランス監督の狙いだ。『ブルーバレンタイン』は過去と現在を行ったり来たりしながら、主人公の2人に息が詰まるほど密着して、愛の始まりと終わりを描き出す。その手法は効果的だが、観客はつらくて我慢の限界を試されている気分になる。
だがこの映画は、見る者を捉えて離さない。それはウィリアムズとゴスリングの演技が恐ろしく冴えているからだ。どちらも完全に役柄に成り切っている。ゴスリングの役柄のほうが感情の起伏が激しく見せ場は多い。シンディーが働くクリニックで、ディーンの自暴自棄が爆発するシーンは圧巻だ。
ウィリアムズの演技も同じくらい素晴らしい。ディーン以外の男の子供を身ごもったシンディーは、人工妊娠中絶の手術を受けに行くが、土壇場でやめようと決意する。そのときの彼女の苦悩の表情は、身震いがするほど迫真に満ちている。
刺激的だが見る者を疲れさせるこの映画に難点があるとすれば、多くの素晴らしいシーンが、全体としては、あまりうまくまとまっていないことだ。
とはいえ、ゴスリングとウィリアムズの演技は見る価値がある。ただしデートで見るのはやめたほうがいい。
[2010年12月15日号掲載]