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五七五の魔法をロシアに伝える
アレクサンドル・ドーリン(日本文学研究者、国際教養大学教授)
言語を超えて ドーリンは五七五のリズムをロシア語で表現する方法を考案 Courtesy of Alexander Dolin
「ロシアの伝統的な詩と俳句の違いは大きい。地上の動物と鳥を比べるようなものだ」と、アレクサンドル・ドーリン(58)は言う。「明確な叙述を特徴とする西欧の詩とは違い、俳句は連想の力を効果的に使う。しかし欧米人もロシア人も、前提を説明されれば俳句の美しさを理解できる」
ドーリンは日本文学の専門家として、短歌や俳句、近現代詩をロシアに紹介してきた。30冊以上にのぼる著書で取り上げた対象は幅広い。『古今和歌集』や正岡子規、種田山頭火の作品をロシア語に翻訳する一方、大佛次郎の『赤穂浪士』など小説の翻訳も手がけてきた。
07年には近現代の短歌、俳句、詩の選集『日本近代現代詩歌史』をまとめた。一方では武道研究家の顔をもち、『拳法 東アジアの武芸の伝統』はロシアや東欧で計100万部売れたベストセラーだ。
詩の翻訳には独特のむずかしさがあるとドーリンは言う。「短歌や俳句などの定型詩には、(季語などの)決まったイメージと、一定した魔法のようなリズムがある。それをロシア語で伝えるには、ロシア語特有のリズムに置き換えることが必要だ」。彼は五七五のリズムをロシア語で表現する方法を考案し、翻訳を洗練させていった。
この10年間のロシアはあらゆる分野で日本文化ブームだった。モスクワには400店以上の日本料理店があふれ、村上春樹の小説やオタク文化も受け入れられた。一方で、ソ連時代から日本の古典文学の翻訳は数多く、読者は現在でも数万人はいる。「たとえば、『閑(しずか)さや 岩にしみ入る 蝉の声』という句は、高校生でも知っている」とドーリンは言う。
時代を反映して、最近の大学ではビジネス専攻が増え、日本文学専攻の大学院生はほとんどいない。「日本文学に興味をもつ人は増えているのに、プロの研究者が少なくなっている」とドーリンは残念がる。彼の責任は増すばかりだ。
[2008年10月15日号掲載]